そう思っていると佐々木慶一が私に、こっそりと話しかけてきた。

「あの人じゃないですか? さっきから俺達の周りをうろついている」

「えっ……?」

 俺は、驚きながら言われた方を見る。すると人混みに紛れて瀬戸さんが居た。
 マスクをして帽子を被っているが姿で分かった。
 えっ? でも……何で瀬戸さんが!? 何で? と思ったがハッとする。
 もしかして神崎さんが仕掛けたことじゃないかと。変な奴が俺の周りにうろついていた信憑性がある。話を信じてもらいやすいだろう。

「はい……そうです。後ろを向かないで、もし気づかれたら何されるか」

 俺は、あえて後ろを振り向かせないようにさせた。下手にジロジロ見て瀬戸さんが刑事だと知られる訳にはいかない。すると何を考えたのか佐々木慶一は、俺の手を握ってきた。はぁっ?

「走ろう!!」

 佐々木慶一は、そう言うと俺の手を握ったまま急に走り出した。
 えっ? ちょっと待て!!
 止める間もなく走るはめになってしまった。瀬戸さんも慌てて追いかけるが人が多いせいか姿が見えなくなってしまった。

「これだけ走れば大丈夫かな? 加奈子さん。大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です」

 大丈夫じゃない。何で走るはめに?
 瀬戸さんは、見失うし……ピンチなのは、むしろ今の状況なのだが。

「あ、でも……終電逃してしまいましたね」

 はぁっ? 慌ててPCウォッチを見ると逃げる間に終電時間を過ぎてしまっていた。マ……マジかよ!?
 どうするんだよ……今からタクシーに乗るにもタクシー代がキツいし。
うーんと唸っていると佐々木さんは、思い付いたように俺の手をまた握ってきた。

「ここなら俺の家近いんです。良かったら今日泊まって行きませんか?」

 はぁっ? 何を言っているんだ……コイツ。俺は、その言葉にドン引きした。

「えっ……でも悪いですし。それに友達も家に……」

「あんな危ない奴が居る状態で帰せません。女友達にも危害があるかもしれない。
それに終電だし……あ、心配はいりませんよ。俺は、何もしませんから」

 そう言ってくるが、そういう時の男が一番信用ならないんだよな。