チラッと見てみると佐々木慶一だった。早速、連絡が来たみたいだ。
 もしかして会いたいというやつか? 俺は、画面を小さく設定して見てみる。

『今夜お会い出来ませんか?』と……。
 やっぱり。会いたいという内容だった。とりあえず会う約束をしてと。
神崎さんにも連絡を。こそこそとメールをする。よし、これで良し。
 すると終了のチャイムが鳴った。俺は、慌ててカバンを持つと帰ろうと席を立つ。

「立花~もう帰るのか? またバイト?」

「いや。今日は、用事のほう。じゃあな松本」

「あぁ……またな。なんだ~今日こそと思ったのに」

 松本が残念な表情をしていたが、俺は神崎さんに指示された美容院まで急いだ。
 佐々木慶一と会うのは夜なのだが、それまでの支度がある。女装にも時間が、かかるので間に合うように行くとメイクをして服を交換する。
 あぁ、こんな姿を友人に見られたら恥ずかしくて死ぬ。

 そして待ち合わせした六本木にあるバーに向かった。薄暗めで大人っぽい落ち着いたバー。
 お洒落な雰囲気料金も高そうだ。まだ薄暗いから誤魔化しが利きそうだが。

「また藍沢さんに会えるなんて嬉しいです。誘いを受け入れてくれてありがとうございます」

「こ、こちらこそありがとうございます。まさかメールを下さるなんて思わなかったから、とても嬉しかったです。素敵な方だったから私なんて相手にされないと思っていて」

「そんな……相手しない訳がないですよ。俺こそ初めての参加で、こんな素敵な女性と知り合えるなんて夢のようだ」

 照れたように頬を赤らめる佐々木慶一を見て俺は、唖然とした。嘘をつくなよ。
 あれだけ結婚詐欺をしておいて初めて参加とかどうにかしている。いや……待てよ。それが手か。自分は、恋愛に不慣れだと相手に思わせて本気にさせる気だ。
 そうに違いない。だとしたら、なんて最低な野郎だろうか。許せないと思った。

 しかし顔に出したらバレる。それにあの作戦も実行しないといけない。
 我慢だ……俺。自分を必死に言い聞かした。よし、あの作戦だ。えっと……落ち着け。深呼吸をすると佐々木慶一に見つめる。