実際にいる藍沢製薬会社の令嬢の名を借りた。もし検索されても大丈夫なようにしておいてくれた。

 そして婚活パーティー当日。女装して会場に向かった。神崎さんが、用意してくれたワンピースに着替えて。宝石のアクセサリーと黒髪のロングヘアーのウィッグをメイクは、腕利きの美容師にやってもらった。確かに鏡で見た時は、これが俺?だとは思ったけど。しかし背が168センチで女性だと長身だ。
 別に特別美人ではないのに、こんな姿で本当に大丈夫なのだろうか?
 神崎さん的には、「あくまでも男性経験が少なく、騙されやすそうな女性がターゲットにされやすい。下手に上手く演じようとしなくてもいいから、言われた通りにやれ」と言われたが。
 下手に上手くやろうとしなくてもいいって、それってかえって難しい気がする。
 大根演技なんかしてみろ……すぐにはバレてしまう。あくまでも女性として振る舞わないと。俺は、緊張しながら会場に入っていく。

 会場は広々としていて、たくさんの男女がパーティーのように集まり楽しそうに会話をしていた。
うわぁ……凄いな。婚活パーティーなんて初めてだから何をどうしたらいいのか分からない。とりあえず岡原慶一を捜さないと。

 あ、居た。居た。何も無かったように涼しそうな表情でワインを飲みながら女性と話をしていた。ダークブラウンの髪につり目だがキリッとした目。神崎さんには大分劣るが、一般的にはイケメンに入る分類だろう。
 しかし数々の詐欺をしておいて女性を騙したというのに、よく平気な顔をして楽しめるな?
 許せないと思ったし、ギャフンと言わせたいとも思った。でも、とりあえず言われた通りに近づかないと……。
 俺は、深呼吸をすると岡原に近づいで行く。そしてニコッと笑顔で話しかけてみた。

「あの……少しお話をしませんか?」

「あぁ、いいよ。君名前は?」

「あ、藍沢加奈子です」

「藍沢……加奈子さん? いい名前ですね。それにスタイルもいい。もしかしてモデルさんか何かですか?」