「な、何が復讐だよ。こんなの間違っている。目を覚ますんだ。復讐しても何の意味もない」

 俺は、暴れる堀内瑞穂を必死に押さえながら、岸谷ほのかに訴えてかけた。
 だが彼女の心には届かなかったようで「はぁっ?」という表情をされる。

「はぁっ? 意味ならあるじゃない。コイツはね、私をイジメていたのよ。死んで当然の人間。だから自分で復讐して何が悪いのよ?」

「イジメされたからって……復讐しても、君は救われるのか? そんなの虚しいだけだ。わざわざ自分の手を汚すことなんてない」

 どんな辛い過去があっても、それで変わる訳はない。そんな事をしても誰も救われない。自分が経験してきた事だから分かる。
 だから乗り越えるしかないんだ……前を向いて。
すると仮面の男は、アハハッと可笑しそうに笑ってきた。

「アハハッ……随分と立派な偽善的な考え方だね? 思わず笑わちゃったよ」

「何が可笑しいんだよ!?」

 キツネの仮面の男が馬鹿にしてくるので、何だか腹が立ってきた。
 どう考えても賢明な判断だろ!?

「それは、君のただの自己満足に過ぎない。そんな事を言った所で、イジメが無くなる訳ではあるまいし。大体復讐のどこが悪いんだ? やられたからやり返す。当然の報いだろ? そんなに甘く無いんだよ……世間は。結局、自分の身を守れるのは自分だ。なら、殺して何が悪い?」

「自己満足とか甘いとかの問題じゃない。そんなことをしたら罪になる。警察に捕まり法に裁かれるぞ」

「法に警察ね……あんなグズ達に何が出来る? 法とか言いながら未成年の犯罪には甘い。それに警察は無能だ。我々赤薔薇会を未だに捕まえられないゴミ集団。それが何をしてくれる? 未然に防げないから犯罪も減らないのだろう? ほのか。聞いただろう? こういうのを偽善者と呼ぶ」

 お面の男は、岸谷ほのかに語りかけた。……違う。警察も法律も無能じゃない。
 そう思うのに、身体が一瞬固まりそうになった。何故か分からないけど……心が揺らいだ。聞いたらいけないと分かっているのに彼の言葉が引っかかる。
 すると堀内瑞穂は、力一杯俺を振り払ってくる。凄い力だ。
勢いで派手に突き飛ばされ、後ろに倒れてしまう。くっ……イテテッ……。
 痛がりながら起き上がると岸谷ほのかを見る。すると鋭い目つきで俺達を睨んできた。