俺は、どう説明したらいいか戸惑っていると、神崎先生はニコッと微笑んできた。

「あ、すまない。人違いだった。あまりにも知り合いに似ていたから、思わず声をかけてしまった」

「えっ? そうなの? 何だ~」

「本当に申し訳ない。じゃあ……俺は、これで。君達も早く教室に戻るんだぞ」

 その神崎先生は、謝罪をすると何も無かったかのように、俺の横を通り過ぎて行く。
 人違いだったか? いや……違う。確かに俺の苗字を言ったし、記憶がない時の自分を知っているようだった。
 俺は、慌てて後ろを振り返った。すでに行ってしまった後だったが。
もし彼があのオーナーだったのなら、何故ここに?
 探偵でもあったと聞いていたけど、何かの調査か?
 何故だろうか。思い出せないのに気持ちがモヤモヤして、どうしようもない不安を抱いていく。
 怖いと言うよりも息苦しさに近い。胸が締めつけられそうになる。

「先生……どうしたの?」

「あの先生って名前なんて言うの?」
「うん? あ、あぁ……神崎桃哉先生。養護教諭の先生だよ。えっ? やっぱり知り合い?」

「いや……別に」

 その勘が当たっていた。やっぱり彼がオーナーだ!
 ここに居るのは偶然か? いや……彼は養護教諭じゃない。探偵だし、喫茶店のオーナーだ。
 じゃあ何故? この学校に? もしかして俺を捜し出すために?
 どうして俺なんかを……?
 そう考えると、ある言葉が浮かぶ。もしかして本当に事件の黒幕で俺を消すために? 何なんだ……これ。気持ちが悪い。
 頭がズキズキと痛むし、胸が余計に苦しくなってくる。

「大丈夫? 先生……顔色が真っ青だよ? 神崎先生を呼びに行こうか?」


「だ、大丈夫……ちょっと緊張し過ぎただけだから」

 また会うとか冗談じゃないと思った。
 気持ち悪いのは、その内に治まってきたけど
あれからずっと神崎っていう先生のことが頭から離れなかった。