ギルド自治区〈ガルトランド〉。

 断崖絶壁を利用した高い外壁に囲まれた一大都市。

 帝都とはまったく異なる街並みだ。帝都は背の高い石造りで、とんがり屋根の建物が多くてメルヘンチックだった。

 こちらはもう少し都会的だ。

 町というより要塞っていう感じだな。

 道ばたに止めてある牛車から興味深く街並みを眺めていると、道の向こうの建物からメルが走ってきた。

「坊ちゃんのおかげで荷物もしっかり届けられましたぁ~っ!」

 いぇい、とメルがダブルピースしてみせる。

「それはよかったです」

「いやぁ、商人ギルド〈黄金の道〉は特に遅配にうるさいですからねー。もう、本当に助かりましたよ。はー、発掘ギルドや情報ギルドの大らかさを見習ってほしいですよ」

「さすが、色々なギルドがあるんだなぁ」

「ええ、なんせギルド自治区ですから」

「帝国では冒険者も国が管理してランク付けしてたから、ビックリだよ」

 ついに外国に来たって感じがする。

 異国情緒を胸いっぱいに感じて、ウキウキするぞ。

「へっへへ、配達優先にさせてもらったんで改めて──ギルド自治区〈ガルトランド〉へようこそ!」

 メルが満面の笑顔を浮かべた。

「ロマンシア帝国の領土である上大陸から独立した、自由の国です! あ、帝都の旦那から見ると、まだまだ未開の地が多い下大陸への入り口ってことになりますかね……とにかく、超いいところです!」

「故郷の説明が雑だね」

「えっへへ、習うより慣れろって言いますから、オススメスポットとか色々教えますよ~」

「あ、それはありがたいな」

 知らない町に来たら、住民に話を聞くのが一番いい。

 特に、美味い店を探すのは。

 オススメの居酒屋をメルから教えてもらうことにした。

 メルが一緒に飲みたがったが、自由を祝して独り飲みがしたいので丁重にお断りした。ごめんよ。

「今後とも、運送ギルド〈ねずみの隊列〉をご贔屓に!」

 メルと分かれて、今後の予定を考える。

 帝都を追い出されて、行く先の候補はいくつかあった。

 リィトがここギルド自治区〈ガルトランド〉に来たのは、ある目的(・・・・)のためなのだが──もう日が傾き始めている。

 まず、向かうのは居酒屋だ。

 この世界にはアイスはないが──ビールならある。