トーゲン村に帰ると、猫人族ズが到着したところだった。

 出荷するベリー酒や農作物のやりとりを終えてしまえば、あとは宴だ。

 東の山からアデルが連れ帰ったヌシ──アデルにより「トラ」という身も蓋もない名前をつけられた猛虎型モンスターを見て、花人族たちは驚いたり喜んだり大騒ぎだった。

 マンマが記事にしたそうにしていたが、ちょっとした賄賂(マタタビ酒)で手を引いて貰うことにした。

 上級モンスターをテイムしたとか、帝国の皇女が出入りしているとか。

 そういう情報はできるだけ漏れてほしくないのだ。

 悪目立ちは絶対にしちゃいけない。

 ……ただでさえ、雲行きが怪しいのだから。

(アデルの持ってきてくれた資料……これって、やっぱり謎の苗Xのことだよなぁ)

 帝都図書館の資料室にあった目録らしい。

 宮廷魔導師が買いつけた魔導具や素材が書かれているのだが、大昔──モンスターの大量発生に端を発する対魔戦争が始まるずっと前、まだ帝国が小さな小国だったころ、ある宮廷魔導師が大量のあやしげな品々を買い付けたらしい。

 その目録の中には、こう記されていた。

 世界樹の種子。

 正直、偽物を掴まされたと考えるほうが理にかなっている。

 世界樹の種子なんてものが存在するかどうかも怪しいし、あったとしても手に入れられるわけがない。

「でも、状況証拠がすごいんだよな……」

 青く光り輝く種子。

 魔力で育ち、七色の光をまとった苗に成長する。

 マンマが調べてきてくれた、お伽噺のような言い伝えの通りなのだ。

 まさか、本当に世界樹の種子なのか。

 だとしたら、大変なことになってしまったぞ……とリィトは胃を痛くする。

 だって、もしこのまま世界樹が育ったとしたら……数百年、いや、数千年ぶりにこの大陸に世界樹が存在することになる。

 悪目立ちしていること、この上ない。

 目立たずに、ごく平凡に、隠居ライフを送ろうと思ってこの土地にやってきたのだ。

 まさか、帝都からたったひとつだけ持ってきた種子が──ちょっと面白そうだからと育ててきた、珍しい植物が、世界樹だなんて。

「そんなこと、ある? あああ……何やってるんだよ、僕はぁあぁあ……ッ」

「ニャーーッ? リィト氏そんなとこで何してるのニャ?」