カタリナの普段着というだけでドキッとするのに、着ている服が襟まわりが広いタイプのワンピースだったので余計にドキドキしてしまう。
綺麗な鎖骨がバチコリ見えてしまっているので、ぶっちゃけ、目のやりどころに困る。
「ごめん、寝てた?」
「……え? あ、いや、腹が減ってちょうど起きたとこ……だけど……ど、どうした? 今日はオフ日……だよな?」
「どうしたって……」
そう尋ねると、カタリナは手にしていた麻袋をチラリを見る。
「ガーランドにピュイくんの様子を見に行ってくれないかって頼まれたのよ。それで、ついでだからご飯でも作ってあげようかなって」
「……はい?」
色々とツッコむべき箇所がある気がするが、どこから指摘すればいいかわからん。
この数日はガーランドが様子を見に来てくれていたが、いきなりカタリナに頼んだのだろうか。ていうか、オフ日なのに?
それに、ついでにご飯作ってやろうってどういうことだ?
まさかそれもガーランドに頼まれたのか?
(ていうのは、ウソなんだけどね)
ウソかい!
てか、どこからウソ!?
まさか、ガーランドに様子を見てこいって言われたところからウソなの!?
こわい! 心の声を聞けてるのに、全然わからない!
(だって、5日もピュイくんと会ってないと、しゅきしゅきエネルギーが枯渇しちゃうんだもん。だから、すこしだけ補充させて?)
聞こえてきたカタリナの声に、唖然としてしまう。
「……しゅ、しゅき?」
「え?」
「いや、なんでもない」
つい反応してしまったけど……これは、なんだろう。
カタリナの心の中の乙女度が、ぐんとアップしている気がするんですけど。
カタリナが首をかしげながら尋ねてくる。
「よくわからないけど、とりあえず上がってもいいかしら?」
「あ、うん。大丈夫──」
俺は高速で部屋の中を目視確認する。
リビングに脱ぎっぱなしのパンツは無し!
ベッドの近くにカタリナに見られたらヤバいものも、無し!
「──だから上がっても良いぞ」
「そう。じゃ、じゃあ、お邪魔します……」
カタリナが緊張の面持ちで、恐る恐る部屋に上がってくる。
ドアを締めたとたん、部屋に痛いくらいの静寂が訪れた。
なんだか現実味がない光景だった。
俺の部屋にカタリナがいる。
それも、普段着のカタリナが。
もしかして、これは夢だったりするのだろうか。
魔力切れで気を失っている俺が見ている夢。すぐに誰もいない部屋で目が覚めて、なんだか虚しさに襲われてしまって──。
(わああああああ! ピュイくんの部屋だぁあああ! 上がっちゃったあああああ! 待って、大変っ! ピュイくんの匂いがするっ! 胸いっぱいに吸い込んでもいいかなっ!?)
うん、夢じゃないっぽいな。
涼しい顔をして俺の部屋を見渡しているカタリナの心の中は、俺以上に大興奮だった。
とりあえず、フリオニールみたいにクンカクンカするのはやめろよ?
てか、女子って匂いフェチが多いのか?
「な、なんだか、想像通りね?」
興奮を必死に抑え込んでいるのか、カタリナが少し震えた声で尋ねてきた。
「……想像? どういう意味だ?」
「あなたの見た目通り、至って普通って意味よ」
「……」
はいはい、味気のない部屋ですみませんね。
俺の部屋にあるものと言えば、着替えや魔導衣を入れているチェストに、魔力ポーションを保管している棚。それに、杖に使っている魔導石を保管している鍵付きの小箱。
冒険者家業で使うものしか置いていない、実に殺風景な部屋だ。
(でも、それが良い。ピュイくんっぽくて好き)
またしても言葉とは裏腹な本心のカタリナさん。
胸中フォロー、ありがとうございます。
そう言ってもらえると、救われます。
カタリナはなんだかすごく楽しそうに部屋をひととおり見たあと、キッチンへと向かった。
「じゃあ、借りるわね?」
「ああ、好きに使ってくれ……っていうか、俺の部屋にキッチンがあるの、よく知ってたな?」
カタリナの家にはあるのかもしれないけど、こういう共同住宅で炉付きのキッチンがついている部屋なんて、珍しいほうだと思うけど。
「あ、ええと……ガーランドに聞いて?」
と、背をこちらに向けたまま答えるカタリナだったが──。
(ガーランドにピュイくんの家の場所を聞いて建物の所有者を調べて、彼に直接聞きに行ったのよ)
「……へぇ」
つい、気の抜けた返事をしてしまった。
さすがカタリナ。行動力がハンパないな。
そこまでして料理を作りに来てくれるなんて、メチャクチャ嬉しいけどさ。
「……心配してたのよ」
キッチンで食材を広げながら、カタリナが言う。
「魔力切れの後遺症を早く治すには、栄養価の高い食べ物を取らないといけないらしいじゃない? なのに、聞けばガーランドは金熊亭の肉料理ばっかり持っていってたみたいだし」
「一応ガーランドの名誉のために言っとくけど、あいつに肉をリクエストしたのは俺だからな? 俺にとって肉は薬みたいなもんなんだ」
「知ってるわよ。ヴィセミルには『ピュイを喜ばせるにはカスタードプディングと牛肉をあてがっておけばいい』っていう言い回しがあるくらいだもんね?」
「……っ!? ねぇよ!」
カタリナの背中をにらみつける。
どっかで聞いた言い回しだなとおもったら、カタリナの好きなもの当てゲームのときにガーランドが言ってたんだっけ。
「てか、お前って料理なんてできたんだな?」
「なによそれ。ひょっとして、バカにしてる?」
カタリナが肩越しに鋭い視線を向けてくる。
「わたしはカタリナ・フォン・クレールよ?」
「……さいですか」
料理もできるって完璧すぎるだろ……と褒めたかったのだが、今のひとことで不安が増大してしまった。
カタリナさん。そのセリフを吐いたときの期待はずれ率、ヤバいことになってるの気づいてないのか?
でもまぁ、得意というのなら任せよう。
そうして俺はベッドに腰掛けて、キッチンで料理をはじめたカタリナを見守っていたのだが──。
(……ええっと、どうやるんだったかな。料理って、あんまり作ったことないんだよね)
早速、不穏な言葉を心の中で囁くカタリナ嬢。
本当に大丈夫か、とソワソワししはじめた俺をよそに、カタリナはごそごそと食材を入れいてた麻袋の中から一枚の羊皮紙を取り出した。
(でも、これを見て作れば平気よね。リルーに書いてもらってよかった……)
どうやらレシピのメモらしい。
それを見てほっと安堵しながら、なんだか嬉しくなってしまった。
犬猿の仲のリルーにレシピを書いてもらったってことは、頭を下げて協力を請うたに違いない。
そこまでしてくれるなんて、嬉しすぎる。
それからカタリナはメモを見ながら黙々と料理を続け、30分ほどが経った。
「……よし、これで完成ね」
ベッドの上でうつらうつらと船を漕いでいた俺は、カタリナの声ではっを目を覚ます。
いつの間にか、俺の部屋にはなんともうまそうな匂いが充満していた。
これはなんだろう。
野菜と香辛料の香りっぽいけど。
「おまたせ」
そうしてカタリナは、小さな器に入れてスプーンと一緒に運んできてくれたのだが──。
「……ええと。これって、なんだ?」
器を受け取るなり、固まってしまった。
「え? ええっと、『こーらるぴ』の野菜スープ?」
なんだそりゃ? と思ったけど、すぐになんのことかわかった。
「……球茎キャベツの『コールラビ』のことか?」
「っ!?」
カタリナが、ぼっと頬を赤く染める。
「そっ、それが言いたかったの! 言い間違えただけ!」
「さいですか」
コールラビはキャベツとカブが合わさったような野菜だ。柔らかくて甘みがあって焼いてもうまい。
俺の故郷でも作っていた野菜で、「結球しないから栽培期間が短くて作りやすいのよ」って母親が言ってたっけ。
しかし、と俺は改めて野菜スープを見る。
匂いは良いが、なんていうか──見た目が酷い。
野菜のヘタはまんま入ってるし、野菜はざく切りすぎて一口じゃ食べきれないくらいにデカい。
「た、食べてみて?」
ベッドに腰掛けている俺の前にちょこんと正座し、不安げに上目遣いで俺を見てくるカタリナ。
なんですかその自信なさげな表情は。
これは──一抹の不安を覚えざるを得ないんですけど。
綺麗な鎖骨がバチコリ見えてしまっているので、ぶっちゃけ、目のやりどころに困る。
「ごめん、寝てた?」
「……え? あ、いや、腹が減ってちょうど起きたとこ……だけど……ど、どうした? 今日はオフ日……だよな?」
「どうしたって……」
そう尋ねると、カタリナは手にしていた麻袋をチラリを見る。
「ガーランドにピュイくんの様子を見に行ってくれないかって頼まれたのよ。それで、ついでだからご飯でも作ってあげようかなって」
「……はい?」
色々とツッコむべき箇所がある気がするが、どこから指摘すればいいかわからん。
この数日はガーランドが様子を見に来てくれていたが、いきなりカタリナに頼んだのだろうか。ていうか、オフ日なのに?
それに、ついでにご飯作ってやろうってどういうことだ?
まさかそれもガーランドに頼まれたのか?
(ていうのは、ウソなんだけどね)
ウソかい!
てか、どこからウソ!?
まさか、ガーランドに様子を見てこいって言われたところからウソなの!?
こわい! 心の声を聞けてるのに、全然わからない!
(だって、5日もピュイくんと会ってないと、しゅきしゅきエネルギーが枯渇しちゃうんだもん。だから、すこしだけ補充させて?)
聞こえてきたカタリナの声に、唖然としてしまう。
「……しゅ、しゅき?」
「え?」
「いや、なんでもない」
つい反応してしまったけど……これは、なんだろう。
カタリナの心の中の乙女度が、ぐんとアップしている気がするんですけど。
カタリナが首をかしげながら尋ねてくる。
「よくわからないけど、とりあえず上がってもいいかしら?」
「あ、うん。大丈夫──」
俺は高速で部屋の中を目視確認する。
リビングに脱ぎっぱなしのパンツは無し!
ベッドの近くにカタリナに見られたらヤバいものも、無し!
「──だから上がっても良いぞ」
「そう。じゃ、じゃあ、お邪魔します……」
カタリナが緊張の面持ちで、恐る恐る部屋に上がってくる。
ドアを締めたとたん、部屋に痛いくらいの静寂が訪れた。
なんだか現実味がない光景だった。
俺の部屋にカタリナがいる。
それも、普段着のカタリナが。
もしかして、これは夢だったりするのだろうか。
魔力切れで気を失っている俺が見ている夢。すぐに誰もいない部屋で目が覚めて、なんだか虚しさに襲われてしまって──。
(わああああああ! ピュイくんの部屋だぁあああ! 上がっちゃったあああああ! 待って、大変っ! ピュイくんの匂いがするっ! 胸いっぱいに吸い込んでもいいかなっ!?)
うん、夢じゃないっぽいな。
涼しい顔をして俺の部屋を見渡しているカタリナの心の中は、俺以上に大興奮だった。
とりあえず、フリオニールみたいにクンカクンカするのはやめろよ?
てか、女子って匂いフェチが多いのか?
「な、なんだか、想像通りね?」
興奮を必死に抑え込んでいるのか、カタリナが少し震えた声で尋ねてきた。
「……想像? どういう意味だ?」
「あなたの見た目通り、至って普通って意味よ」
「……」
はいはい、味気のない部屋ですみませんね。
俺の部屋にあるものと言えば、着替えや魔導衣を入れているチェストに、魔力ポーションを保管している棚。それに、杖に使っている魔導石を保管している鍵付きの小箱。
冒険者家業で使うものしか置いていない、実に殺風景な部屋だ。
(でも、それが良い。ピュイくんっぽくて好き)
またしても言葉とは裏腹な本心のカタリナさん。
胸中フォロー、ありがとうございます。
そう言ってもらえると、救われます。
カタリナはなんだかすごく楽しそうに部屋をひととおり見たあと、キッチンへと向かった。
「じゃあ、借りるわね?」
「ああ、好きに使ってくれ……っていうか、俺の部屋にキッチンがあるの、よく知ってたな?」
カタリナの家にはあるのかもしれないけど、こういう共同住宅で炉付きのキッチンがついている部屋なんて、珍しいほうだと思うけど。
「あ、ええと……ガーランドに聞いて?」
と、背をこちらに向けたまま答えるカタリナだったが──。
(ガーランドにピュイくんの家の場所を聞いて建物の所有者を調べて、彼に直接聞きに行ったのよ)
「……へぇ」
つい、気の抜けた返事をしてしまった。
さすがカタリナ。行動力がハンパないな。
そこまでして料理を作りに来てくれるなんて、メチャクチャ嬉しいけどさ。
「……心配してたのよ」
キッチンで食材を広げながら、カタリナが言う。
「魔力切れの後遺症を早く治すには、栄養価の高い食べ物を取らないといけないらしいじゃない? なのに、聞けばガーランドは金熊亭の肉料理ばっかり持っていってたみたいだし」
「一応ガーランドの名誉のために言っとくけど、あいつに肉をリクエストしたのは俺だからな? 俺にとって肉は薬みたいなもんなんだ」
「知ってるわよ。ヴィセミルには『ピュイを喜ばせるにはカスタードプディングと牛肉をあてがっておけばいい』っていう言い回しがあるくらいだもんね?」
「……っ!? ねぇよ!」
カタリナの背中をにらみつける。
どっかで聞いた言い回しだなとおもったら、カタリナの好きなもの当てゲームのときにガーランドが言ってたんだっけ。
「てか、お前って料理なんてできたんだな?」
「なによそれ。ひょっとして、バカにしてる?」
カタリナが肩越しに鋭い視線を向けてくる。
「わたしはカタリナ・フォン・クレールよ?」
「……さいですか」
料理もできるって完璧すぎるだろ……と褒めたかったのだが、今のひとことで不安が増大してしまった。
カタリナさん。そのセリフを吐いたときの期待はずれ率、ヤバいことになってるの気づいてないのか?
でもまぁ、得意というのなら任せよう。
そうして俺はベッドに腰掛けて、キッチンで料理をはじめたカタリナを見守っていたのだが──。
(……ええっと、どうやるんだったかな。料理って、あんまり作ったことないんだよね)
早速、不穏な言葉を心の中で囁くカタリナ嬢。
本当に大丈夫か、とソワソワししはじめた俺をよそに、カタリナはごそごそと食材を入れいてた麻袋の中から一枚の羊皮紙を取り出した。
(でも、これを見て作れば平気よね。リルーに書いてもらってよかった……)
どうやらレシピのメモらしい。
それを見てほっと安堵しながら、なんだか嬉しくなってしまった。
犬猿の仲のリルーにレシピを書いてもらったってことは、頭を下げて協力を請うたに違いない。
そこまでしてくれるなんて、嬉しすぎる。
それからカタリナはメモを見ながら黙々と料理を続け、30分ほどが経った。
「……よし、これで完成ね」
ベッドの上でうつらうつらと船を漕いでいた俺は、カタリナの声ではっを目を覚ます。
いつの間にか、俺の部屋にはなんともうまそうな匂いが充満していた。
これはなんだろう。
野菜と香辛料の香りっぽいけど。
「おまたせ」
そうしてカタリナは、小さな器に入れてスプーンと一緒に運んできてくれたのだが──。
「……ええと。これって、なんだ?」
器を受け取るなり、固まってしまった。
「え? ええっと、『こーらるぴ』の野菜スープ?」
なんだそりゃ? と思ったけど、すぐになんのことかわかった。
「……球茎キャベツの『コールラビ』のことか?」
「っ!?」
カタリナが、ぼっと頬を赤く染める。
「そっ、それが言いたかったの! 言い間違えただけ!」
「さいですか」
コールラビはキャベツとカブが合わさったような野菜だ。柔らかくて甘みがあって焼いてもうまい。
俺の故郷でも作っていた野菜で、「結球しないから栽培期間が短くて作りやすいのよ」って母親が言ってたっけ。
しかし、と俺は改めて野菜スープを見る。
匂いは良いが、なんていうか──見た目が酷い。
野菜のヘタはまんま入ってるし、野菜はざく切りすぎて一口じゃ食べきれないくらいにデカい。
「た、食べてみて?」
ベッドに腰掛けている俺の前にちょこんと正座し、不安げに上目遣いで俺を見てくるカタリナ。
なんですかその自信なさげな表情は。
これは──一抹の不安を覚えざるを得ないんですけど。