モニカがはっと思い出したように言った。

「そういえば、自宅まで送った……みたいなこと、言ってましたね」

 彼女は腕を組み、眉間にシワを寄せて続ける。

「確かにサティちゃんが言う通り、これは脈アリなのかもしれませんよ? だって、嫌いな相手だったら自宅まで送ってもらうなんてことはしないですもん。ピュイさんみたいな怪しい男なら、なおさら」

「お前、もう少し発言には気をつけたほうが良いと思うぞ」

 特に俺に対して。

 こう見えて俺は、パーティリーダーなんだぞ。

 「何のことですか?」と真顔で首をかしげるモニカに殺意を抱きまくっていたとき、カタリナがおもむろに口を開いた。

「そ、そうかしら? そ、そ、その女性、ピュイくんのことをただの『足』としか思ってないんじゃない? あんな、なんのためらいもなく色仕掛けしてくる低劣な女、男を消耗品か何かとしか見てないわ」

 ふふん、とドヤ顔でディスるカタリナ。

 だが、目が泳ぎまくってるので、動揺してるのがまるわかりだ。

 しかし、こいつは、一応これが恋愛相談だということをわかっているのだろうか。

 勘違いされているのが分かってるからダメージは無いけど、普通の恋愛相談でこんなことを言われたら、泣いちゃうと思うよ?

「……あんな?」

 小首をかしげたのはモニカだ。

「なんだか実際に見たことがあるような口調ですが、もしかしてカタリナさん、お相手の方をご存知なんですか?」

「……っ!? し、知らない! 想像よ、想像」

「ははあ、なるほど。ただの想像でそこまで断言できるなんて、流石ですね」

 にこやかにモニカが言う。

 多分、本人としては称賛しているつもりなんだろうけど、けなしてる感がすごい。

 流石にカタリナも怒るんじゃないかと思ったが──。

「そ、そう? ありがと」

 頬を赤らめて照れるカタリナ。

 うん、気づきませんでした。

 カタリナも意外とポンコツだからな〜。

「ていうかピュイさん、わたし、すっごく疑問なんですけど」

 モニカが身を乗り出して尋ねてきた。

「その女性を自宅まで送ったんなら、なんでヤッちゃわなかったんですか?」

「……っ!?」

 驚きのあまり、鼻水が出そうになってしまった。

 突然何を言い出すんだこの天然娘は。

 女子がヤるとか何のためらいもなく言うな。

 羞恥心くらい、忘れずに持ってこいよ。

「ちょっと詰めが甘くないですかピュイさん? 既成事実、作っちゃえば楽だったのに」

「ば、バカ野郎。酔っぱらった相手にそんなことできるわけないだろ」

「え? 酔っぱらった?」 

「そうだよ。一緒に酒を飲んでて、そいつが酔いつぶれたから家まで送った……って説明しただろ」

「あれ? そうでしたっけ?」

 あはは、と愛想笑いを浮かべるモニカ。

 コイツは人の話を全く聞いてないな。

 というか、カタリナにも一応、流れを説明しておいたほうがいいか? 

 とはいえ、あまり詳細に話すとカタリナのことだってバレそうだから、くわしいところはぼかしておいて──

 などと思って、カタリナを見たら、ポカンとした表情で俺を見ていた。

「な、なんだよ?」

「え? あ……なな、なんでもない!」

 カタリナは慌てて視線をそらすが、すぐにこちらにチラチラと視線を送り始めた。 

 そして、もじもじと言いにくそうに尋ねてくる。

「えと、あの……そ、その相手っていうのは、お酒に弱い……の?」

「え……? まぁ、うん。そうだと思うけど?」

 飲み比べでサティに負けたくらいだからな。

「……」

 カタリナはじっと俺を見て、おもむろに心の中でささやく。

(リルーじゃない)

 ギクリとした。

 カタリナが続けて尋ねてくる。

「その相手って、剣を使うのが得意?」

「と、得意、だと思う」

「……(リルーじゃ……ない)」

 鼓動が早くなる。

 もしかして、こいつ──

「その人、最近までソロで冒険者をやってた?」

「……うん」

「その女性が住んでるところって、北地区?」

「…………そう」

「……」

 ぱっとうつむいたカタリナの顔は、耳の先まで真っ赤になっていた。

 そういう俺の心臓も、今にも口から飛び出してきそうなくらいに高鳴っている。

 バレた。

 これは、完全にバレた。

 心の声を聞くまでもなく、バレてしまった。

 ここは全力で否定するべきだけれど、必死になれば信ぴょう性がある思われてしまうかもしれない。

 全身から汗が吹き出してくる。

 ううううあああああ、これはどうしよう!?

「ねぇ、ピュイくん!」

 カタリナがずいっとテーブルに身を乗り出してきた。

 彼女の顔は意を決したかのように、真剣だった。

「は、はい!?」

 ギョッとした俺はカタリナが体を乗り出して来た分、のけぞってしまう。

「もしかして……もしかして、その相手って──」

「ガ、ガーランドさんですかっ!?」

 ズババッと割り込んできたのは、空気を読まないモニカだった。

 天然娘からの奇襲攻撃で口を閉ざされてしまった俺とカタリナは、言葉の変わりに視線で無言の圧を送る。

「……あっ」

 俺たちの視線を一気に受けたモニカは、しまったと言いたげに両手で口を押さえた。