いつものように冒険者ギルドに依頼の報告をして、カタリナの「反省会」という名のデレ地獄を味わったあと──
俺はカタリナとパーティメンバーたちが待つ行きつけの酒場へと向かっていた。
「よっしゃ〜! 今日は溺れるくらいエール飲みまくるぞ!」
つい嬉しくなって、薄暗くなってきた空に向かって叫んでしまった。
今日も怪我もなく依頼を終わらせたし、カタリナの「胸中デレ」に動揺することなく反省会も終わらせた。
頑張ったな、俺。1日の疲れをエールで流そうぜ。
「……はぁ、ほんと子供」
はしゃいでいる俺を見て、カタリナが重い溜息をついた。
「恥ずかしいから、離れて歩いてくれない?」
「おいおいおい、なんだカタリナ? 子供心を忘れちまったのかぁ? まったく、お前もつまらない大人になっちまったもんだなぁ?」
「わたしの何を知ってるのよ。ていうか、仮につまらなくなったとしても、あなたみたいに常識を忘れたダメ大人になるよりマシでしょ」
これぞ辛辣、という言葉を投げかけてくるカタリナ。だが──
(ほんと、子供みたいにはしゃいじゃってもう。可愛いんだから。ふふっ)
「……うごぉおおおっ!」
「な、何よ急に!?」
「エールだ! 俺に今すぐエールを飲ませろ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 置いていかないで!」
そうして俺たちは街の中央広場にある酒場、「酔いどれ金熊亭」に到着した。
俺が立ち上げたパーティ「笑うドラゴン」御用達の酒場だ。ヴィセミルには3つの酒場があるのだが、ここの店主が俺と同じ北部出身で、出される酒や料理も北部のものが多いのだ。
「……む、ようやく来たか」
窓際にある席に座っていた大男が俺たちをちらりと見た。顔の彫りが深く、はっきりとした顔立ちに無精髭。黒い鎧の上から羽織った赤い外套(サーコート)が異様に目立っている。
こいつがパーティの「盾」と言っても過言ではないメンバーの最古参、ガーランドだ。
「ああ、本当にようやくだよ」
愚痴をこぼしてガーランドの隣に座ったら、カタリナからじろりと睨まれた。
ガーランドの反対隣では、大きな三角帽子をかぶった長い銀髪の少女と、目元を仮面で隠した黒尽くめの少女が何やら談笑している。
三角帽をかぶった少女はモニカだ。炎系の魔術を得意とする魔術師で、炎の精霊サラマンダーと契約をしているので目が赤い。
飯を食うときくらい帽子を脱げばいいのにと思うのだが、「精霊魔術師たるもの、いかなるときも有事に備えておかなくてはいけないんですよっ!」と熱弁された。ちなみに、帽子をかぶっているからといって魔術が強化されるなんてことはない。
顔の半分を仮面で隠している黒尽くめの少女はサティ。
過去に何かあったらしく、色々と「訳あり」でパーティに加入してきた。
素性がわからない部分が多かったので、読心スキルで加入の理由を心の声に聞いてみたけれど、それ以上は詮索していない。腹に一物抱えているような輩をパーティに入れるわけにはいかないので読心スキルを使っているが、必要以上のことは聞かないようにしているのだ。
デリカシーが無い俺も、そこらへんはわきまえている。
……まぁ、カタリナだけは例外だけど。
と、すました顔で席についているカタリナを盗み見る。
今思い返しても、カタリナの加入は青天の霹靂だった。
ヴィセミルで冒険者として活動している以上、俺もカタリナの噂は以前から耳にしていた。
ヴィセミルが誇る、最強冒険者にして絶世の美女。
誰とも組むことなく単独で活動している孤高の天才。
伝説のドラゴン「白龍」をひとりで討伐したドラゴンハンター。
カタリナの逸話は数しれず、彼女に任せればかつて世界を恐怖に陥れた魔王でさえも、3日で倒せるなんて話も出るくらいだ。
カタリナは俺たち一般冒険者にとって雲の上の存在だ。彼女と同じ街で冒険者をやっているだけで、誇りに思う連中も多いはずだ。
そんなカタリナが、「あなたのパーティに入れてほしい」と声をかけてきたのだ。あのときの衝撃といったら言葉では言い表せない。
カタリナと会えただけで周囲に自慢できるのに、まさかパーティに入れてくれだなんて。
結論。俺はカタリナをめちゃくちゃ訝しんだ。
俺の冒険者ランクは下から2番目のDランクだし、俺が立ち上げたパーティ「笑うドラゴン」も、クラスCとDを行ったりきたりしているレベルなのだ。
そんなパーティに、最上級のAAクラスの冒険者が入りたいわけがない。
こいつは絶対裏がある。
そう思った俺はサティの加入以来、久しぶりに読心スキルを使ってみることにしたのだが──
(わ、わ、わ、わたし……ピュ、ピュイくんに話しかけちゃった! ああっ、ピュイくんがわたしを見てる……やめて、もう、とろけちゃいそう……好きっ)
色々な意味で、俺はビビりまくった。
なんでカタリナが俺にここまでデレているのか。そして、涼しげで達観してる風なのに、なぜにこうも心の中が乙女なのか。
ひとますデレている理由を知りたくて「どこかでお会いしましたっけ?」と尋ねてみたが、「以前に一度だけ……」と返されただけだった。
心の声を聞いたところ「忘れもしないわ、あの日のことを!」と、親の敵を討ちにきた刺客みたいなセリフを吐いていたので、怖くなってそれ以上は詮索していない。
そして、カタリナが加入して一ヶ月が経ったのだが──なぜ彼女が俺にデレているのかは、いまだにわかっていない。
俺はカタリナとパーティメンバーたちが待つ行きつけの酒場へと向かっていた。
「よっしゃ〜! 今日は溺れるくらいエール飲みまくるぞ!」
つい嬉しくなって、薄暗くなってきた空に向かって叫んでしまった。
今日も怪我もなく依頼を終わらせたし、カタリナの「胸中デレ」に動揺することなく反省会も終わらせた。
頑張ったな、俺。1日の疲れをエールで流そうぜ。
「……はぁ、ほんと子供」
はしゃいでいる俺を見て、カタリナが重い溜息をついた。
「恥ずかしいから、離れて歩いてくれない?」
「おいおいおい、なんだカタリナ? 子供心を忘れちまったのかぁ? まったく、お前もつまらない大人になっちまったもんだなぁ?」
「わたしの何を知ってるのよ。ていうか、仮につまらなくなったとしても、あなたみたいに常識を忘れたダメ大人になるよりマシでしょ」
これぞ辛辣、という言葉を投げかけてくるカタリナ。だが──
(ほんと、子供みたいにはしゃいじゃってもう。可愛いんだから。ふふっ)
「……うごぉおおおっ!」
「な、何よ急に!?」
「エールだ! 俺に今すぐエールを飲ませろ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 置いていかないで!」
そうして俺たちは街の中央広場にある酒場、「酔いどれ金熊亭」に到着した。
俺が立ち上げたパーティ「笑うドラゴン」御用達の酒場だ。ヴィセミルには3つの酒場があるのだが、ここの店主が俺と同じ北部出身で、出される酒や料理も北部のものが多いのだ。
「……む、ようやく来たか」
窓際にある席に座っていた大男が俺たちをちらりと見た。顔の彫りが深く、はっきりとした顔立ちに無精髭。黒い鎧の上から羽織った赤い外套(サーコート)が異様に目立っている。
こいつがパーティの「盾」と言っても過言ではないメンバーの最古参、ガーランドだ。
「ああ、本当にようやくだよ」
愚痴をこぼしてガーランドの隣に座ったら、カタリナからじろりと睨まれた。
ガーランドの反対隣では、大きな三角帽子をかぶった長い銀髪の少女と、目元を仮面で隠した黒尽くめの少女が何やら談笑している。
三角帽をかぶった少女はモニカだ。炎系の魔術を得意とする魔術師で、炎の精霊サラマンダーと契約をしているので目が赤い。
飯を食うときくらい帽子を脱げばいいのにと思うのだが、「精霊魔術師たるもの、いかなるときも有事に備えておかなくてはいけないんですよっ!」と熱弁された。ちなみに、帽子をかぶっているからといって魔術が強化されるなんてことはない。
顔の半分を仮面で隠している黒尽くめの少女はサティ。
過去に何かあったらしく、色々と「訳あり」でパーティに加入してきた。
素性がわからない部分が多かったので、読心スキルで加入の理由を心の声に聞いてみたけれど、それ以上は詮索していない。腹に一物抱えているような輩をパーティに入れるわけにはいかないので読心スキルを使っているが、必要以上のことは聞かないようにしているのだ。
デリカシーが無い俺も、そこらへんはわきまえている。
……まぁ、カタリナだけは例外だけど。
と、すました顔で席についているカタリナを盗み見る。
今思い返しても、カタリナの加入は青天の霹靂だった。
ヴィセミルで冒険者として活動している以上、俺もカタリナの噂は以前から耳にしていた。
ヴィセミルが誇る、最強冒険者にして絶世の美女。
誰とも組むことなく単独で活動している孤高の天才。
伝説のドラゴン「白龍」をひとりで討伐したドラゴンハンター。
カタリナの逸話は数しれず、彼女に任せればかつて世界を恐怖に陥れた魔王でさえも、3日で倒せるなんて話も出るくらいだ。
カタリナは俺たち一般冒険者にとって雲の上の存在だ。彼女と同じ街で冒険者をやっているだけで、誇りに思う連中も多いはずだ。
そんなカタリナが、「あなたのパーティに入れてほしい」と声をかけてきたのだ。あのときの衝撃といったら言葉では言い表せない。
カタリナと会えただけで周囲に自慢できるのに、まさかパーティに入れてくれだなんて。
結論。俺はカタリナをめちゃくちゃ訝しんだ。
俺の冒険者ランクは下から2番目のDランクだし、俺が立ち上げたパーティ「笑うドラゴン」も、クラスCとDを行ったりきたりしているレベルなのだ。
そんなパーティに、最上級のAAクラスの冒険者が入りたいわけがない。
こいつは絶対裏がある。
そう思った俺はサティの加入以来、久しぶりに読心スキルを使ってみることにしたのだが──
(わ、わ、わ、わたし……ピュ、ピュイくんに話しかけちゃった! ああっ、ピュイくんがわたしを見てる……やめて、もう、とろけちゃいそう……好きっ)
色々な意味で、俺はビビりまくった。
なんでカタリナが俺にここまでデレているのか。そして、涼しげで達観してる風なのに、なぜにこうも心の中が乙女なのか。
ひとますデレている理由を知りたくて「どこかでお会いしましたっけ?」と尋ねてみたが、「以前に一度だけ……」と返されただけだった。
心の声を聞いたところ「忘れもしないわ、あの日のことを!」と、親の敵を討ちにきた刺客みたいなセリフを吐いていたので、怖くなってそれ以上は詮索していない。
そして、カタリナが加入して一ヶ月が経ったのだが──なぜ彼女が俺にデレているのかは、いまだにわかっていない。