俺は胡散臭いものを見るような視線をモニカに投げつけた。
前回の「カタリナの好きなもの当てゲーム」に続いて、こいつはまた妙な提案をしてきやがって。
酒の飲み比べとか、マジで言ってんのか。
毎日のように酒を飲んでる俺やガーランドに飲み比べの勝負を挑んでくるとか、どんだけ身の程知らずなんだ。
ガーランドも俺と同じことを考えたのか、訝しげな表情をモニカに向ける。
「……本当に言っているのか? 俺もピュイも酒には強いほうだと思うのだが……」
「え? そうなんですか?」
目をぱちくりと瞬かせるモニカ。
「ちなみに、どれくらい強いんです?」
興味深げに聞いてきたので、俺が答えた。
「たしか最後に飲んだときは、俺がジョッキ7杯くらいで、ガーランドが10杯くらいだったっけ?」
俺は7杯でギブアップしたが、ガーランドは平気のようだった。
ガーランドは「子供が生まれてから控えているから、随分と弱くなった」みたいなこと言ってたけど、以前よりも増して強くなっていた。
多分、酒豪のリルーに鍛えられたんだろう。
「……ええと、ひいふうみい……」
モニカが指折り数えていき、7つ数えたところで数えるのをやめて、にっこりと微笑んだ。
「お酒に強いガーランドさんとピュイさんは、わたしたちの応援ってことで!」
まぁ、そうなるよな。
しかし、応援ってつまらなさすぎだろ。
いや、飲み比べもつまんねぇんだけどさ。
「俺たちは俺たちで勝手に飲むから、飲み比べはモニカたちで勝手にやっててくれ」
「何を言ってるんですか! その発言はさすがに責任感なさすぎでしょ! わたしも怒りますよ!?」
「……え? あ……わ、悪い」
適当にあしらおうと思ったら、モニカに真剣に怒られた。
メンバー同士の親睦を深めるチャンスなのに、勝手にやってろというのは流石にマズい発言だったか。
と思ったが──。
「ピュイさんたちが見ていなかったら、一体誰が酔いつぶれたわたしたちを介抱するんです!?」
「介抱される前提で飲み比べを提案するな」
「いたっ!」
思わずモニカの後頭部を叩いてしまった。
そういう心配かよ。自分のケツは自分で拭け。
「し、仕方ないですね」
ずれた三角帽をかぶりなおしながら、モニカがやむなしと言いたげに言う。
「ピュイさんのやる気が出るとっておきの情報を教えてあげましょう」
「……え? とっておきの情報?」
その単語に、つい食いついてしまった。
モニカは腕を組み、「そうです」とドヤ顔で続ける。
「いいですかピュイさん。ここだけの話……酔っ払ったカタリナさんって、メチャクチャすごいんですよ?」
「……は? え? す、すご?」
どういう反応をしていいか困惑してしまった。
すごいって、何が?
酔っぱらったカタリナさんって、何がすごくなるの?
「実は先日のオフ日にサティちゃんとカタリナさんの3人で飲んだんですよ。そのとき、ちょっとカタリナさんが酔っ払っちゃってですね──」
「ちょっと、モニカ!」
と、カタリナが慌てて割って入ってきた。
「あのときのことは秘密にしてって言ったでしょ!」
「えへへ、だ〜いじょうぶですってば。これ以上は秘密です。言わぬが花。沈黙は金なり。ムッフッフ……」
モニカは非常に良からぬ笑みを浮かべながら、俺に「まぁ、そういうことです」と言って話を強制的に終わらせた。
なんだかモヤモヤとしたものが胸中に渦巻く。
いや、最後までちゃんと話せよ。メチャクチャ気になるじゃないか。
俺は羨望の眼差しをモニカに向ける。
だが、彼女はニヤケ顔で俺を見るばかりで、口を割ろうとしない。
……くそ。あまりやりたくないが、ここはモニカの心の声を聞くしかないか。
(いやぁ、本当に可愛かったなぁ。あのカタリナさんが「モニカたん。ぎゅってして〜」って子供みたいに甘えてきちゃうんだから)
俺の体に稲妻のような衝撃が走る。
カタリナが子供みたいに甘えてくる、だと?
心の中だけじゃなくて、リアルで?
俺は頭をフル回転させ、少しだけ妄想してみる。
艶やかに頬を火照らせて「誕生日プレゼントは、ピュイくんがいいの」みたいに甘えてくるカタリナの姿を。
……
…………あ、良い。
良いですよ、それ。
そんなカタリナを見るのも萌えるし、その事実を使えば後日胸中デレ地獄の仕返しができるし、最高すぎるじゃないですか!
俺はすぐさま立ち上がり、ジョッキを両手に持った。
「……よし、俺がしっかり介抱してやる。だからお前たち! 今日は安心して酔いつぶれいいぞ!」
「いえ〜い!」
期待に胸を踊らせながらも全力で心を落ち着かせて、「仕方ないなぁ」感を出す俺を見て、モニカが嬉しそうに拳を突き上げる。
「はぁ……」
カタリナが重い溜息をもらした。
「安心して酔いつぶれろって、あなたって嫌になるくらい子供なのね」
そして、彼女はジロリと冷たい視線を俺に投げつけてくる。
「いい? あなたと違って、わたしは節度のある大人なの。他人の手をわずらわせることになるまで酔っぱらうわけがないでしょ? バカじゃないの?」
と、口では言っているカタリナだったが──
(あああ、もう! ピュイくんが介抱してくるなんて! そんなの、酔いつぶれる以外に選択肢があるわけないでしょ!?)
心の中では真逆のことを叫んでいた。
(だってだって、介抱ってつまり、わたしを優しく抱きかかえて家まで送ってくれるってことでしょ!? そんなことになったら、流れに身を任せて一線を越えちゃったりしない!? きゃ〜っ! もう、ピュイくんったらっ! 大胆っ! 尊死しちゃうっ!)
大胆なのはお前のほうだ。
塩気が強いセリフ吐きながら、心の中でどんだけ糖分高い妄想膨らませてんだお前。
「まぁまぁ、カタリナさん」
モニカがすすっとカタリナに体を寄せていく。
「そう硬いこと言わずに。今日はピュイさんに甘えちゃいましょうよ? なんだか気前がいいみたいですし、こんなチャンスは二度とないかもしれませんよ?」
「…………はぁ」
カタリナはじっとモニカを見つめ、小さくため息をもらした。
そして、「やれやれ子供なんだから。ホント、困っちゃうわね」とでも言いたげに首を振ってから──かっさらうようにジョッキを手にとった。
「仕方ないわね! そこまでいうなら、今日はモニカに付き合ってあげるわ!」
と言いつつ、ウキウキ顔のカタリナ。
「はい! それじゃあ、かんぱ〜い!」
モニカがテーブルに置いてあったハチミツ酒のジョッキを手にとって掲げる。
彼女に続いてカタリナとサティがジョッキを持ち、モニカと乾杯を交わした。
「よ〜し、今日はたくさん飲んじゃうぞおっ! あははっ!」
そしてモニカは楽しそうにケラケラと笑いながらジョッキに口をつけ、一気にぐいっと煽って──
「……ぅぐぇ」
勢いよく背中から倒れた。
それはもう、綺麗にドサッと。
俺は慌ててモニカに駆け寄った。
「お、おい、モニカ!? どうした!?」
「は、はひ……しんぱいしなくても、だいじょうぶれふ……こうみえて……おさけ……つよいのれ……」
ふらふらと立ち上がったモニカは、椅子に戻って再びジョッキを手に取ろうとしたが、そのまま突っ伏して動かなくなってしまった。
その光景を固唾を呑んで見守る俺とガーランド。
少しの沈黙ののち、聞こえてきたのは可愛い寝息だった。
「……え? マジで?」
おいおい、嘘だろ。まさか、ジョッキ1杯で潰れたのか?
困惑する俺の横から、サティが心配そうにモニカの顔を覗き込んだ。
「モ、モニカちゃん、またやっちゃいましたね……」
「え? また?」
「そうなんです。この前は大丈夫だったんですけど、少し前に調子にのって一気飲みして倒れちゃったんですよ。危ないから一気飲みはやめてくださいって言ったのに」
なんだそりゃ。
それでよく「飲み比べしましょう」なんて、大それたこと言えたもんだな。
「サティ」
聞こえたのは、鋭いカタリナの声。
「倒れた人間を気にしている暇なんてないわよ? ここからは、わたしとあなたの勝負なんだから」
「……え? あ、はいっ」
サティが慌ててジョッキを手に取る。
どうやらカタリナが放つ張り詰めた空気に、気圧されてしまったようだ。
まるで依頼中のように真剣な目をしているカタリナからは、並々ならぬ勝負に対する執念が伺える。
しかし、その心の中は全く違うものだった。
(もう! わたしは早くお酒が飲みたいのっ! たくさんお酒を飲んで、ピュイくんに介抱してもらうんだからっ!)
うん、乙女っ!
それに、動機がおかしいっ!
飲み比べとか、すでにどうでもよくなってますよねそれ!
というか、俺に介抱されるくらいベロベロに酔っ払って、大丈夫なのか?
キミ、今日は誕生日で──俺と特別な日にするとか言ってなかったっけ?
前回の「カタリナの好きなもの当てゲーム」に続いて、こいつはまた妙な提案をしてきやがって。
酒の飲み比べとか、マジで言ってんのか。
毎日のように酒を飲んでる俺やガーランドに飲み比べの勝負を挑んでくるとか、どんだけ身の程知らずなんだ。
ガーランドも俺と同じことを考えたのか、訝しげな表情をモニカに向ける。
「……本当に言っているのか? 俺もピュイも酒には強いほうだと思うのだが……」
「え? そうなんですか?」
目をぱちくりと瞬かせるモニカ。
「ちなみに、どれくらい強いんです?」
興味深げに聞いてきたので、俺が答えた。
「たしか最後に飲んだときは、俺がジョッキ7杯くらいで、ガーランドが10杯くらいだったっけ?」
俺は7杯でギブアップしたが、ガーランドは平気のようだった。
ガーランドは「子供が生まれてから控えているから、随分と弱くなった」みたいなこと言ってたけど、以前よりも増して強くなっていた。
多分、酒豪のリルーに鍛えられたんだろう。
「……ええと、ひいふうみい……」
モニカが指折り数えていき、7つ数えたところで数えるのをやめて、にっこりと微笑んだ。
「お酒に強いガーランドさんとピュイさんは、わたしたちの応援ってことで!」
まぁ、そうなるよな。
しかし、応援ってつまらなさすぎだろ。
いや、飲み比べもつまんねぇんだけどさ。
「俺たちは俺たちで勝手に飲むから、飲み比べはモニカたちで勝手にやっててくれ」
「何を言ってるんですか! その発言はさすがに責任感なさすぎでしょ! わたしも怒りますよ!?」
「……え? あ……わ、悪い」
適当にあしらおうと思ったら、モニカに真剣に怒られた。
メンバー同士の親睦を深めるチャンスなのに、勝手にやってろというのは流石にマズい発言だったか。
と思ったが──。
「ピュイさんたちが見ていなかったら、一体誰が酔いつぶれたわたしたちを介抱するんです!?」
「介抱される前提で飲み比べを提案するな」
「いたっ!」
思わずモニカの後頭部を叩いてしまった。
そういう心配かよ。自分のケツは自分で拭け。
「し、仕方ないですね」
ずれた三角帽をかぶりなおしながら、モニカがやむなしと言いたげに言う。
「ピュイさんのやる気が出るとっておきの情報を教えてあげましょう」
「……え? とっておきの情報?」
その単語に、つい食いついてしまった。
モニカは腕を組み、「そうです」とドヤ顔で続ける。
「いいですかピュイさん。ここだけの話……酔っ払ったカタリナさんって、メチャクチャすごいんですよ?」
「……は? え? す、すご?」
どういう反応をしていいか困惑してしまった。
すごいって、何が?
酔っぱらったカタリナさんって、何がすごくなるの?
「実は先日のオフ日にサティちゃんとカタリナさんの3人で飲んだんですよ。そのとき、ちょっとカタリナさんが酔っ払っちゃってですね──」
「ちょっと、モニカ!」
と、カタリナが慌てて割って入ってきた。
「あのときのことは秘密にしてって言ったでしょ!」
「えへへ、だ〜いじょうぶですってば。これ以上は秘密です。言わぬが花。沈黙は金なり。ムッフッフ……」
モニカは非常に良からぬ笑みを浮かべながら、俺に「まぁ、そういうことです」と言って話を強制的に終わらせた。
なんだかモヤモヤとしたものが胸中に渦巻く。
いや、最後までちゃんと話せよ。メチャクチャ気になるじゃないか。
俺は羨望の眼差しをモニカに向ける。
だが、彼女はニヤケ顔で俺を見るばかりで、口を割ろうとしない。
……くそ。あまりやりたくないが、ここはモニカの心の声を聞くしかないか。
(いやぁ、本当に可愛かったなぁ。あのカタリナさんが「モニカたん。ぎゅってして〜」って子供みたいに甘えてきちゃうんだから)
俺の体に稲妻のような衝撃が走る。
カタリナが子供みたいに甘えてくる、だと?
心の中だけじゃなくて、リアルで?
俺は頭をフル回転させ、少しだけ妄想してみる。
艶やかに頬を火照らせて「誕生日プレゼントは、ピュイくんがいいの」みたいに甘えてくるカタリナの姿を。
……
…………あ、良い。
良いですよ、それ。
そんなカタリナを見るのも萌えるし、その事実を使えば後日胸中デレ地獄の仕返しができるし、最高すぎるじゃないですか!
俺はすぐさま立ち上がり、ジョッキを両手に持った。
「……よし、俺がしっかり介抱してやる。だからお前たち! 今日は安心して酔いつぶれいいぞ!」
「いえ〜い!」
期待に胸を踊らせながらも全力で心を落ち着かせて、「仕方ないなぁ」感を出す俺を見て、モニカが嬉しそうに拳を突き上げる。
「はぁ……」
カタリナが重い溜息をもらした。
「安心して酔いつぶれろって、あなたって嫌になるくらい子供なのね」
そして、彼女はジロリと冷たい視線を俺に投げつけてくる。
「いい? あなたと違って、わたしは節度のある大人なの。他人の手をわずらわせることになるまで酔っぱらうわけがないでしょ? バカじゃないの?」
と、口では言っているカタリナだったが──
(あああ、もう! ピュイくんが介抱してくるなんて! そんなの、酔いつぶれる以外に選択肢があるわけないでしょ!?)
心の中では真逆のことを叫んでいた。
(だってだって、介抱ってつまり、わたしを優しく抱きかかえて家まで送ってくれるってことでしょ!? そんなことになったら、流れに身を任せて一線を越えちゃったりしない!? きゃ〜っ! もう、ピュイくんったらっ! 大胆っ! 尊死しちゃうっ!)
大胆なのはお前のほうだ。
塩気が強いセリフ吐きながら、心の中でどんだけ糖分高い妄想膨らませてんだお前。
「まぁまぁ、カタリナさん」
モニカがすすっとカタリナに体を寄せていく。
「そう硬いこと言わずに。今日はピュイさんに甘えちゃいましょうよ? なんだか気前がいいみたいですし、こんなチャンスは二度とないかもしれませんよ?」
「…………はぁ」
カタリナはじっとモニカを見つめ、小さくため息をもらした。
そして、「やれやれ子供なんだから。ホント、困っちゃうわね」とでも言いたげに首を振ってから──かっさらうようにジョッキを手にとった。
「仕方ないわね! そこまでいうなら、今日はモニカに付き合ってあげるわ!」
と言いつつ、ウキウキ顔のカタリナ。
「はい! それじゃあ、かんぱ〜い!」
モニカがテーブルに置いてあったハチミツ酒のジョッキを手にとって掲げる。
彼女に続いてカタリナとサティがジョッキを持ち、モニカと乾杯を交わした。
「よ〜し、今日はたくさん飲んじゃうぞおっ! あははっ!」
そしてモニカは楽しそうにケラケラと笑いながらジョッキに口をつけ、一気にぐいっと煽って──
「……ぅぐぇ」
勢いよく背中から倒れた。
それはもう、綺麗にドサッと。
俺は慌ててモニカに駆け寄った。
「お、おい、モニカ!? どうした!?」
「は、はひ……しんぱいしなくても、だいじょうぶれふ……こうみえて……おさけ……つよいのれ……」
ふらふらと立ち上がったモニカは、椅子に戻って再びジョッキを手に取ろうとしたが、そのまま突っ伏して動かなくなってしまった。
その光景を固唾を呑んで見守る俺とガーランド。
少しの沈黙ののち、聞こえてきたのは可愛い寝息だった。
「……え? マジで?」
おいおい、嘘だろ。まさか、ジョッキ1杯で潰れたのか?
困惑する俺の横から、サティが心配そうにモニカの顔を覗き込んだ。
「モ、モニカちゃん、またやっちゃいましたね……」
「え? また?」
「そうなんです。この前は大丈夫だったんですけど、少し前に調子にのって一気飲みして倒れちゃったんですよ。危ないから一気飲みはやめてくださいって言ったのに」
なんだそりゃ。
それでよく「飲み比べしましょう」なんて、大それたこと言えたもんだな。
「サティ」
聞こえたのは、鋭いカタリナの声。
「倒れた人間を気にしている暇なんてないわよ? ここからは、わたしとあなたの勝負なんだから」
「……え? あ、はいっ」
サティが慌ててジョッキを手に取る。
どうやらカタリナが放つ張り詰めた空気に、気圧されてしまったようだ。
まるで依頼中のように真剣な目をしているカタリナからは、並々ならぬ勝負に対する執念が伺える。
しかし、その心の中は全く違うものだった。
(もう! わたしは早くお酒が飲みたいのっ! たくさんお酒を飲んで、ピュイくんに介抱してもらうんだからっ!)
うん、乙女っ!
それに、動機がおかしいっ!
飲み比べとか、すでにどうでもよくなってますよねそれ!
というか、俺に介抱されるくらいベロベロに酔っ払って、大丈夫なのか?
キミ、今日は誕生日で──俺と特別な日にするとか言ってなかったっけ?