そうして本に入り込めば、当然余分な「ぬ」がそこに存在することになって、それは俗に言う誤字として人々に認識される。


またこの誤字が人間であると気が付かれた場合、それは本の虫として認識される。


本にべったりとくっついて離れないからだ。


この活字中毒を治す薬は残念ながらまだ開発されていない。


昔の本を読まないこと。


どうしても読みたいときは電子書籍で購入することが求められている。


けれど1度紙の本の良さに気がついた人たちはそう簡単に紙の本から離れることはできなくなってしまうのだ。


ちなみに、新聞はギリギリセーフのラインらしい。


中毒性は低く、だけど中毒患者が症状を和らげることができるものとして、重宝されている。


この病院のように待合室に置いてあるところも時々見かける。


小さくなっていく信行を見ていると、また活字不足の症状が出てきて私は新聞を開いた。


そうしている間に信行の体はみるみるうちに小さくなり、スポンッと音を立てて本の中に入り込んでしまったのだ。


その音がして新聞から顔を上げた私はしまったと顔をしかめた。


信行がなんというひらがなになったのかわからなかった。


ベッドの上に残っているのは信行が一番好きで何度も読み直していた、冒険小説の本だけだった。