息を切らしながら校門をくぐると、去年卒業した先輩たちの姿があった。本来ならいないはずの生徒たちが、あたりまえのように校内に入って行く。
糸浜高校の全員で、僕にドッキリを仕掛けているのか?
だけどいくらなんでも、死んだ人間を出演させるのは不可能だ。
困惑しながら、一年五組の靴箱に向かった。
この学校のクラス発表の仕方は独特で、まず生徒たちは昨年度のクラスに一度集まる。そこで先生がひとりずつ新しいクラスを発表し、各自、指定された教室に向かう。
今日で卒業式を迎える僕の同級生たちが、あたりまえのように一年の昇降口から校舎の中に入って行く。行き交う生徒たちが、口々に「二年は何組になるんだろうね」と話している。
強まる違和感に身を固くしながら、一年五組の教室を覗いた。
「騎馬、おはよう」
扉の近くにいた男子たちが、僕に挨(あい)拶(さつ)を投げかけてきた。
「おっ、おはよう」
とっさに返したが、動揺して舌がもつれてしまった。
見れば、一年生のときのクラスメイトたちがそこにいる。彼らはなにごともなかったように普通に話しかけてくる。
きょろきょろしている僕に、クラスメイトが首をかしげた。
「どうしたんだ? さっきから落ち着きないけど」
「あのさ、今日って、僕たちの卒業式だよね?」
「はぁ? どういうこと?」
本気で意味がわからない、といった表情を返された。演技しているようには見えない。
そこへ、一年生のときの担任の先生が入ってきた。みんなが自分の席に着く中、僕はその場から身動きひとつできないでいた。
「騎馬くん、どうしました?」
みんながぐるっと僕のほうへ首を回す。
どうしたもこうしたも、過去に戻ってきているというありえない事態が起きている。それなのに、みんながあまりにも自然にこの異様な空気の中に溶け込んでいるから、怖くなった。
僕がおかしくなってしまったのか?
それともおかしくなってしまったのは、この世界のほう?
叫び出したい衝動に駆られたが、視線の束に萎縮(いしゅく)して、出かかった声は喉の奥に戻っていった。
「なんでもありません」
顔を伏せ、早足で真ん中の列の空席に向かい、腰を下ろした。
なんだよ、この状況……。そわそわして落ち着かない。
担任の先生は改まったように教室を見渡した。
「それでは、今から二年生のクラスを出席番号順に発表していきますので、新しい教室に移動してください」
先生が新しいクラスを読み上げるたびに、生徒たちの一喜一憂の声が室内に響いた。
「うわー、最悪。一番端の教室じゃん」
「やった! また同じクラスだね」
僕より出席番号が早いクラスメイトたちのクラスが次々と発表されていき、ついに自分の番になった。
「騎馬くん、三組」
あっ、と大きな声が出そうになった。
やっぱり二年前と同じことが、記憶通りに再現されている。