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 秋の夜長には、センチメンタルという言葉が最も相応しいらしい。



「センチメンタルって結局何なわけ?」
「……『情』ってことだろ」
「情かぁ」
「情に流されるような気分とか?」
「なるほど」


 それって例えば初対面なのに案外馬が合って、その相手に困ったことが起これば放っておけなくなったり、あるいは小さい頃に遊んだ縫いぐるみを古くなっても捨てられなくて何となく部屋の端に置いては、インテリアをぶち壊してみたり。


 そういう "意外な執着" のようなものを、意図せず手に入れてしまうこと。そんな気の触れた状況のことだろうか。



「つーか何、急に」
「いや、秋はそういうのが似合うって言うじゃん。でも具体的な話で言えばどういう感じかなって思ってさ」
「具体的な、ねぇ」



 だってまるで秋が特別みたいな。そんな感じじゃないか。


 みんながみんな同じ状況なわけでもなければ、出会う日々だって違うっていうのに。それでもみんな、何故か秋にはセンチメンタルな気分になってしまうというから、恐ろしい。



「んなこと考える暇あるなら肩揉んで」
「何かそういうエピソードある?」
「聞けよ」



 最初に言い出した人はさぞ、その瞬間に深い趣を感じていたんだろうな。月見とかしながらお酒を飲んでたのかも。あるいは、赤く色付いた楓の葉が舞い落ちるのを見て、物寂しさに耽ったり。



「……中学生の頃にさ」
「うん?」
「好きだったヤツが死んだ」
「……」



 唐突な昔話に、なるほど先程の私の要望を聞いてくれたのかと耳を傾ける。


 憂いを帯びた横顔はどことなくあどけなさを残している気がして、どうやら月の灯りの下では視覚も歪んでしまうらしいと妙な侘しさを感じた。