明け方とともに、黒天王の術が解けたのだろう、私の愛するひとは烏となった。
 私は、彼を胸にいだこうとしたけれど――彼はそれを振り切るかのようにぱっと飛び立ち、明け方の空へ吸い込まれるように高く高く飛翔し、しかし、すぐに、その身には雷が落ちて、あっけなく、地へと堕ちた。
 私たちの想い出の、瑠璃唐草の花畑へと。

 雷帝はおそらく、彼がその雷に灼かれるところを私に見せた上で、花畑の上に落とそうとしたのではないか。
 見せしめのように。意地悪く。
 そんなことをしたって、私たちの愛はなんにも変わりないのに。

 私は、烏の骸を抱き上げた。
 黒い煙をあげ、ぐったりとして、目を閉じて……彼は、たしかに命を終えていた。

 雷に灼かれて、さぞ熱かっただろう。
 その亡骸も、なるべくそのままに美しく、あってほしい。

 だから。
 久方ぶりに使う氷術を、ちょっとだけ発揮させた。
 指先から、ものを冷やせる氷術。
 小さなものを冷やすことしかできないから、ろくに役に立ったことのない術だったのだけれど……生涯ではじめて、すこしだけ役立ったのかもしれない。

 あなたの亡骸は、妻である、私のもの。

 背後から慌ただしくも整然とした足音が聞こえる。
 私の罪を問い、掴まえに来たのだろう。

 もうすぐ、……いまにも、夜が明ける。

 私は、これから重罪人。
 でも、大丈夫。きっと大丈夫。

 ……私は、あなたの妻だから。
 来世では、また結ばれるのだから。

 強く、受け入れよう。
 処刑を。
 現世での間違った定めを、強く生き抜いて――来世、令悧に頭を撫でてもらって、褒めてもらおう。

 来世で――早くまた、あなたに会えるといいな。

 タン。……タタン。
 どなたかの、早朝の琴のお稽古が始まる。

 骸を抱き上げ、(くちばし)に、そっと口づけた。