「はあ……」

この人、園田朝陽。
ほんの3日前に高校生になったばかりの男子。
特に上手くはないけど、サッカー部に入部予定。
特技、一日に何度もため息をつける。
定位置、ここ、玄関先の階段、三段目。
「朝陽」という神々しい名前だけど、万年パッとしない地味男子。
存在感、薄め。
彼女いない歴、15年。
私の家の隣に住んでいる、私の、幼馴染み。


「またため息ついてんの?」

これ、私、西村凪咲。
1か月前に朝陽と同じ高校を受験するも、あえなく不合格。
よって、私たちは別々の高校に進学することになった。
私はすべり止めで受けたテニスの強豪校に通っている。
中学でのテニスの戦績で名を上げていた私は、先輩たちからすでに入部オファーがかかり、テニス部に所属が確定している。
自分で言うのもなんだけど、性格は明るくてしっかり者。
ルックスもスタイルも悪くない。
故に告白歴、あまた。された方ね。
しかし彼氏いない歴、15年。

家の敷地の境界線となるフェンスを挟んで、隣同士に私たちの家はある。
小学校低学年までは、家の前に面する私道で縄跳びしたり、ボールで遊んだりしていた。
小学校高学年に上がると、一緒に帰ってそのまま玄関先の階段に腰かけて、おやつを食べながら夕飯まで話すようになった。
中学生になってからは、夜9時ごろになると、別に約束しているわけでもないけど、こうしてここに座って他愛もない話をする。
二人でこんなふうに過ごす時間を、かれこれ10年以上続けている。

朝陽のため息が始まったのは、学校で「思春期」という言葉を習った頃だった。
「はあ」とため息をつく朝陽に、「ああ、これが思春期なんだね」なんてからかったのを今でもよく覚えている。
その矢先、私は園田家を出禁になった。

「年頃の女子が、年頃の男子の家に上がり込むなんて不謹慎だ」

朝陽にそう言われて。
私たちの定位置がフェンスを挟んだあっち側とこっち側の階段である理由は、実はそれも関係している。
男女が不用意に近づくのは、朝陽にとってよろしくないらしい。