数日後、僕はまた木嶋先生の元にやってきた。メガネをどこにやったかと研究室内を探し回っていたが、頭の上にあることを伝えると、恥ずかしそうに頭を掻いた。

「いやいや、これはまいった。年だな。まぁ、今年でお(いとま)する事になっているから、生徒にこんな姿を見せるのもあとわずかと考えたら、良しとしよう。……ああ、まだ公表されていないから、内密に頼むよ」

 それでどうしたんだい? と改めて僕の訪問を尋ねた。どうせ事故の関連だろう、と思って身構えているようにも見える。

 僕は先生に、<会わせたい人がいるから、一緒に帰れないか>と尋ねる。案の定、先生はキョトンとした顔をした。

「はて……私に会わせたい人、か。……かさねに関係があるのかい?」

 僕は正直に頷いた。先生は少し考えて、カレンダーを見ながら答える。

「これから職員会議に出て、残りの仕事を片付けるまでかなり時間がかかる。早くても二十時だ。今日は難しい。明日ならいつもより早く学校を出られるんだが……」

 僕はスマホに<分かりました。明日、駅のホームで待っています>と打ち込んで見せる。
 先生は顔をしかめながら画面に顔を近づけ、メガネを外してから言う。

「……ありがとう。でも今度から文字はもっと大きく表示してくれると助かるな」

 メガネをかけたままだと何も見えない。