後ろに突き出した俺のストックに彼女をつかまらせて、電車ごっこの子供みたいにつながりながらゆっくりと滑り始める。

 彼女はスキーが本当に下手だった。

 ハの字形が前後逆に開いてしまって、すぐに転んでしまう。

 振り向いてストックを引っ張って立ち上がらせてやっても、俺に向かって文句ばかり言っている。

「ああ、もう、やんなっちゃう。私、下手だよね」

「まあ、上手くはないな」

 いちおう表現を和らげたつもりだった。

「だってしょうがないじゃん。滑るっていうこと自体が怖いんだもん。無理なものは無理。ホント怖いの」

「向いてないんだな」

「うん、やんなきゃよかった」

「でも、やってみないと分からないこともあっただろうし」

 俺がそう言うと、声のトーンが上がったような気がした。

「そうなのよ。結果はハズレだったけど、やってみないと当たりかどうかも分からないでしょ」

 そして、一言つけ加えた。

「ユウヤって、良いこと言うよね」

 お褒めにあずかり光栄でございますよ、姫様。

 俺はスピードが出ないように気をつけながら、ときどきターンも入れつつ初心者用コースを下りてきた。

 べつにスキーの楽しさをサービスしようとしたわけじゃない。

 後ろに気を配りながらだと、真っ直ぐに滑れなかっただけだ。

 もうほとんどゲレンデ脇の宿舎近くまで戻ってきたところで急に彼女が俺に倒れかかってきた。

「あー、ごめん」

 板が交錯したままおんぶするような格好になってしまって、二人一度に転ぶと危ないと思った俺は、彼女を背負ったままとっさにしゃがみ込んでそのまま滑り続けた。

 幸い、ほとんど平らだったので、自然に止まって無事だった。

 それなのに、彼女は俺に覆い被さったまま、起き上がろうとしない。

「おい、もう大丈夫だぞ」

「う、うん、ごめん。マジでゴメン」

「まあ、いいから立ってくれよ」

 でも、彼女は起き上がろうとはしなかった。

 何かおかしい。