それにしても幽霊って、なんの幽霊なんだろうか。

 スーパームーンから青い光と一緒に舞い降りてきたのか、白い雪の中からわき出てきたのか。

 まわりには誰もいなかったし、月明かりがごく普通の景色を幻想的に演出している。

 冗談だと言うことは分かっている。

 でも、心のどこかで、だまされたいという気持ちも大きくなり始めていた。

 彼女の真剣なまなざしが俺の判断力を鈍らせているのかもしれない。

 俺って、騙されやすいチョロい男子なのかな。

 と、彼女の方からいきなり俺の手をつかんできた。

 触れることができて逆にびっくりした。

 ――なんてことはない、俺はだまされていたというわけだ。

 まあ、触れたといっても、手袋のせいで、お互いのぬくもりなど感じられなかった。

 まるで木の棒を触れ合わせたような感覚だった。

「なんだよ、触れるじゃんか」

 彼女がふふっと笑う。

「だからびっくりしないでねって言ったでしょ」

 ドッキリ大成功の札を持って出てきた人みたいに彼女はご機嫌だった。

 俺はなぜか握手をしたまま頭を下げていた。

 なんでそんなことをしてしまったのかは分からない。

 まるで姫に交際を申し込んでいる王子みたいだ。

 よせよ、そんな柄じゃない。

「ふうん。礼儀正しいんだね」

 どうやらお気に召したらしく、彼女はお姫様みたいに膝を曲げてお辞儀をした。

 こんな雪の上で何をやってるんだ、俺は。

 俺は顔を上げて空の月を見上げた。

 これもすべて漱石のせいだ。

 月によけいな意味を持たせやがって。

「じゃあ、一緒に下まで行きましょうか」

 俺はこの状況を早く解消したかった。

 美人と二人でおいしいシチュエーションなんて楽しむ余裕などまったくなかった。

 これ以上一対一で女子の相手をするのは限界だ。

 下の宿舎に連れて行くまでの辛抱だ。