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それから全校集会と成績表配布が滞りなく終わって下校になった。
明日からは夏休みだ。
部活の練習に駆け出していく連中を見送りながら、俺は鞍ヶ瀬柚と一緒にショッピングモールのような校内購買部へ猫用のケージを買いに行った。
彼女の話によれば、生物飼育部を作ろうとしたのは本当だったんだそうだ。
部活動は部員を五人集めれば創部申請できる。
俺たちの秘密を知った鞍ヶ瀬は、倉庫裏で飼い続けるのは無理だろうと、他のクラスの委員長にも名前を貸してもらって創部届けを提出していたらしい。
俺と奈緒よりもバジルのことをちゃんと考えてくれていたのだ。
ただ、その申請は受理されなかった。
下志津奈緒、斉藤佑也、鞍ヶ瀬柚、他のクラスの委員長二人で合計五人の創立メンバーとして記載していたのだが、奈緒の死で人数がそろわなくなったのだ。
結局、申請し直すのはやめて、バジルを鞍ヶ瀬の家で飼えるように親と相談してくれていたとのことだった。
そんな打ち明け話を聞きながら俺たちは体育館倉庫裏までやってきた。
「いろいろ頑張ってくれてありがとうな」
「ホント、感謝してよね」
「先生に怒られても正々堂々としていて、さすが委員長だよな」
「ああ、こわかったなあ」と、棒読みのセリフで俺の背中をつつく。「でも、本当に怖かったんだからね。申請はしたけど受理されてなかったんだし。ヒヤヒヤだったよ」
「申し訳ない。感謝してるよ。ありがとう」
委員長がうつむく。
「下志津さんのためだよ」
「ああ」
バジルはいつもの通風口から顔を出して俺たちを見上げていた。
――ナーオ。
「よしよし、おいで」
鞍ヶ瀬がしゃがんでケージの扉を開けてやると、素直に近寄ってくる。
――ナーオ。
ケージにタオルを入れてやると、興味を示して自分から中へ入っていく。
タオルに絡まるようにころがって安全を確かめると、どうやらケージが気に入ったらしく、バジルはまるでずっとそこに住んでいたかのようにくつろいでいた。
――ナーオ。
「新しいおうちに連れていってあげるからね」
「良かったな、バジル」
これで一区切りついたのかもしれない。