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期末試験の結果も出て、今日は終業式だ。
俺の後ろは空席のままだ。
その席に下志津奈緒が座ることは二度とない。
朝のホームルームで担任から奈緒の死が伝えられたのはあれからすぐだった。
期末試験が終わった日、同級生が参列した葬儀で俺は泣かなかった。
強がっていたわけでもないし、もちろん悲しくなかったわけでもない。
切ない気持ちを抱えていたけど、それが悲しみや寂しさといった名前のついた感情と切り離されて、心で何かを感じることができなくなっていたのだ。
見舞いに行ったあの日、俺は引き返すべきだったんじゃないだろうか。
なんで遠慮なんかしてしまったんだろうか。
今さらどうにもならないことばかり考えてしまう。
俺の心は砂の詰まったジュースの瓶みたいに重苦しかった。
最近はバジルに餌をやるのも忘れていて、鞍ヶ瀬柚が代わりにやってくれていた。
「よーし、みんな席に着けぇー」
夏休み前最後のホームルームがいつものように始まる。
砂時計の砂を捨てたって時の流れを止めることはできない。
下志津奈緒はいなくても、学校は続くのだ。
「赤池ぇー」
「ウッス」
「池崎ぃー」
「はい」
俺の順番が来る。
「斉藤ぉー」
「はい」
もう二度と、つつかれることはない。
その事実が背中から覆い被さって俺を押しつぶしに来るような気がした。
「次は、しもし……」
気まずそうな顔をして担任が咳払いをする。
と、そのときだった。
――ナーオ。
まさか。
――ナーオ。
振り向くと奈緒の椅子にバジルがいた。
おいおい、なんでおまえがここにいるんだ?
すっと背筋を伸ばしながら机の上にひょいと顔を出して俺を見ている。
――ナーオ。
おまえ、勝手に入ってきちゃダメだろうよ。
「おい、なんだそれは!」
担任が俺を指さす。
「おまえか、勝手に連れ込んだのは!」
――ナーオ。
俺の代わりか、下志津奈緒のつもりなのか、バジルがのんきに返事をする。
まったく、困ったやつだよ、おまえは。