「賑やかで楽しいもんな」

「それに……」と彼女が俺の顔をのぞき込む。「ユウヤにも会えたし」

 なんだよ。

 急にそういうこと言うなよ。

 間違ったピースをはめ込もうとしていたみたいに気まずくて、つい黙り込んでしまう。

「なによ」と彼女が口をとがらせる。「なんで黙っちゃうの?」

「そういう会話に慣れてないからだよ。俺の会話能力って、昭和のゲーム機並みだからさ」

 正直に答えたのが良かったのか、彼女はつんと鼻先を空へ向けながら微笑んだ。

「アポロ宇宙船のコンピュータは昭和のゲーム機以下の性能しかなかったんだって。だけど、月まで行けたんだよ」

「だからって、俺は行けないさ」

 俺には手が届かない。

 どんなに月がきれいでも。

 ――すぐそばにいたとしても。

「メンドクサイの? 私としゃべるのが」

「そんなことねえよ」

 あわてて首を振る。

 こんな時に限って『月がきれいですね』なんて言葉しか思い浮かばない。

 ち、違うだろ。

 今じゃねえよ。

 ここじゃねえよ。

 相当焦っていたんだろう。

 変な汗で前髪が額に張り付いていた。

 彼女は非モテ男子の焦り顔を楽しむようにくるりとターンすると、俺と向かい合いながら後ろ向きに歩きだした。

「転ぶなよ」

「そしたら支えてくれるでしょ。王子様みたいに」

「じゃあ、乗馬の練習してこなくちゃな」

 ちょうどすぐ横の馬術部の練習場に白馬がいたから、彼女が手をたたいて喜んでいた。

 こんなふうに俺たちのパズルがゆっくりと組み上がっていく。

 今はまだまばらだけど、そのうち二人だけの風景がはっきりと見えるようになるのかもしれない。