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放課後、俺と下志津奈緒は一緒に下校するようになった。
俺の家と彼女が利用している駅は方向が違う。
言い出したのは彼女の方だった。
「また途中で倒れたら困るから、見守りってことでお願い」
そんなふうに頼まれたら、断るわけにもいかない。
それは俺にとっても都合のいい言い訳でもあった。
女子慣れしていない俺にしてみたら、二人きりで歩いたら、会話が三分と持たない。
だから、これは同級生としての義務なんだと自分に言い聞かせるようにしていた。
部活動の連中の掛け声があちらこちらから聞こえてくる中、校門へ向かって歩く。
この学校は敷地がテーマパーク以上に広いので、それだけでも結構距離がある。
立派な桜やイチョウの並木があって、そこだけ写真に切り取って見れば公園デートの場面と間違われそうだ。
そんなことを意識してしまうと、すぐに俺はしゃべれなくなる。
二人で歩く時間は穴だらけのパズルのようだったけど、空白を一つ一つ埋めるように彼女の方から盛り上げようとしてくれていた。
「ねえ、なんでユウヤは部活やってないの?」
「メンドクサイだろ」
「努力が嫌いとか?」
「それもあるけど、才能がないのが分かってることに打ち込めないじゃんか。ここの連中みたいなハイレベルなやつらを見るとさ、勝てる気しないだろ」
ふうん、とうなずきながら彼女がつぶやいた。
「私はやりたかったけどね。べつにレギュラーになれなくてもいいから」
体が弱いからやらなかったんだろうということは俺でもすぐに理解できたから、何も言えなかった。
ちょっと重くなった空気を払いのけるように彼女が明るく声を上げた。
「でも、この学校、みんなが活躍してくれるから、応援してるとなんか自分も頑張ったみたいでうれしくなるよね」
「ああ、だよな」
「だから私、ここを選んで正解だったと思うよ」
俺も同感だ。
活躍している連中に嫉妬なんかしない。
将来金メダリストやプロ選手になるような同級生もいるわけで、むしろ自慢の友人たちだ。
やつらの本物の努力の前では、素直に謙虚になれる。