「さて、さっきの勝負、何してもらおうかな」

 授業が終わるとあいつは勝手に罰ゲームを決める。

 充分に睡眠をとって体力ゲージが回復しているからご機嫌なのはいいが、その分気まぐれだ。

「じゃあ、ワンって吠えてよ」

 正直、めんどくさい。

 だから逆らわない。

「ワンワン!」

 チッチッチっと片目をつむって人差し指を振る。

「一回でいいのよ。ほら、ワンだから」

 ダジャレかよ!

 この席替えシステムのおかげで、いつも俺は下志津奈緒にからかわれている。

 あのゲレンデの出会いで「月がきれいだな」なんて聞かれてしまったことが、なんとなく弱みを握られたような感じなのだ。

 漱石のせいかおかげなのか。

 きっかけがなんであれ、こうして女子と接点ができたのは初めてのことで、非モテ男子だった俺の退屈な日常が変化し始めたのは事実だった。