そもそも、俺の後ろの席が下志津奈緒というのがいけないわけだけど、それはこの高校の特殊だが単純な席替えルールのせいだった。

 まず、学年最初の始業式の日は、右前から出席番号順に座っていく。

 出席番号は氏名の五十音順で、俺は斉藤佑也だから、後ろは下志津奈緒になる。

 まあ、それはしょうがないとしよう。

 席替えは毎週末の帰りのホームルームでおこなわれる。

 クジ引きではなく、出席番号順のまま二つずつ後ろにずれていくだけだ。

 各列後ろの二人は次の列の前方に回る。

 そしてそれが一年間ずっと機械的に繰り返されていく。

 前後のメンバーは変わらないけれども、座席の位置は動くし、左右のメンバーもずれていくから雰囲気はけっこう変わる。

 クジ引きのような運要素はないので、いつも自分は廊下側ばかりなんて不満を言うやつは出ないし、後ろの席に当たった幸せ者から幸運を強奪するといった教育上好ましくないイザコザもなくなる。

 生徒の方も、最初からそういうルールだと思っているから、文句も出ない。
 とてもシンプルで公平なシステムだ。

 逆に、公立中学の時のようにわざわざクジ引きで決めて一喜一憂する方がエネルギーの無駄なんじゃないかとすら思えてくる。

 そもそも啓明館学園高校の場合、スポーツ系の連中は練習のしすぎで授業中に起きているやつなどいないし、教師も黙認しているから、席の位置を気にするのは俺のような一般学生だけだ。

 このシステムが公平であることに異議はないが、俺にとっては悩みのタネだ。

 座席の縦の並びが偶数になっているせいで、席替えで位置がずれていっても、俺と下志津奈緒の前後関係は一度も離れたことがない。

 奇数だったら、あいつ一人だけ次の列の前方に押し出されることもあったかもしれないのに。

 そんなわけで、朝だけでなく、授業中でもしょっちゅう背中をつつかれる。

「ちょっと、背中邪魔。見えないよ」

 ――チッ。

 どうせ黒板なんか見ていないくせに。

 それはようするに、退屈だから相手をしろという合図だ。

 無視するとよけい邪魔されるので、背中に手を回してチョキのサインを出してやる。

 そうするとあいつはグーを背中にねじ込んできて、一方的にじゃんけんに勝って喜ぶ。

 そうやってご機嫌を取ってやれば、そのうち爆睡モードに入ってくれる。

 子守みたいなものだ。

 相手をしているうちに俺も寝てしまうんだけどな。

 まったく赤ん坊をあやして寝かしつけるのと要領は変わらないのだ。