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進級して高二の春、俺は下志津奈緒に再会した。
十八もあるクラスの中から同じ二年八組になったのだ。
「へえ、奇跡だね」と、彼女は素直に喜んでくれた。
「ああ、よろしく」
漱石のおかげかもしれない。
俺は文豪に感謝した。
スキー教室のときに群馬の病院に入院した彼女は、そこから地元の病院に移ってずっと療養していたらしい。
ちょうど新学期のタイミングで復帰できたんだそうだ。
もう一人、委員長の鞍ヶ瀬柚も同じクラスで、ここでもまた委員長に選ばれていた。
彼女の噂話によれば、下志津奈緒はどうも心臓が悪いらしいということだった。
本人からは詳細を聞いてはいない。
微妙な内容を根掘り葉掘り聞き出せるほどの関係でもないし、聞いたところで、俺に何ができるわけもない。
ただ、二年生になってからの日々は、俺のそれまでの時間とはまったく違う流れ方に変わっていた。
それは朝のホームルームから始まる。
「出席とるぞぉ」
間延びした声でやる気のなさそうな担任が点呼を始める。
「赤池ぇー」
「ウッス」
「池崎ぃー」
「はい」
こんな調子で気怠く点呼が続くと、朝の弱い俺は三人目くらいで眠くなってしまう。
でも、俺の順番では必ず目が覚める。
いや、起こされるのだ。
「……次、斉藤ぉー」
うとうとしていた耳に自分の名前が聞こえて返事をしようとするタイミングで脇腹を後ろからつつかれる。
「ワオ!」
思わず叫んでしまって、笑いが起きる。
振り向くと下志津奈緒のしてやったりの笑顔が待ち構えていた。
「何すんだよ」
だが、怒られるのは俺の方だ。
「おいこら、斉藤ぉー。出欠んときにイチャつくな。次、下志津!」
「ハイ、スイマセン」と、手までまっすぐにあげて彼女が答える。
これが毎朝の恒例行事のようになっていて、分かっているのに、俺は後ろからの攻撃におびえてしまうのだ。