失礼します、と一礼して自分の部屋にもどろうとしたそのときだった。

 香坂先生に背中から声をかけられた。

「おい、斉藤」

「はい」

 向き直ると、さっきよりも間合いが縮まっていた。

 うおっ、なんすか。

 スーパームーンかよ。

「おまえ、初心者講習組だったよな。よく連れてこられたな」

 やばい、こんなところで嘘がばれるとは。

「あ、まあ、すぐ近くだったんで、なんとか……。必死だったですけど」

 香坂先生が俺の肩に手を置いた。

「そうか。ご苦労だったな」

 解放されるかと思って気を緩めた瞬間、がっちりと肩をつかんでグリリとねじ込まれた。

 バレバレかよ。

 まあ、こればかりは俺も反省するしかない。

 下手な点数稼ぎをしようとしたのがいけないのだ。

 部屋に戻ったところで、ちょうど俺達三組の風呂の順番が回ってきた。

 人数が多いから、割り当てられた時間は短い。

 ちゃっちゃと髪と体を洗って温泉につかったところで、肩にじんわりと痛みがわいてきた。

 さっきの香坂先生のグリリのせいか。

 人助けも楽じゃないな。

 風呂から戻ると、同室の連中はよほどスキーで疲れたのか、電灯のついた明るい部屋でいびきをかいて眠っていた。

 女子の部屋に行こうぜという元気なやつすらいない。

 ずいぶん健全な野郎どもだ。

 非モテ男子の俺が言うことでもないけどな。

 消灯すると、窓から満月の光が差し込んでいた。

 部屋が青く沈む。

 仰向けになって逆さまの満月を見上げていたら、俺もすぐに眠りに落ちてしまった。