――エルフリーデ、これが俺と君の出会いだったね。
――あれから君はすぐに魔科学の理論を学び技術を身につけ、花火を打ち上げられるようになった。
「ユリアン、様? また旅に出るのです?」
「そうだよ、エルフリーデ。今度は南に行くんだ。砂漠を見たことがないだろう? 美しいオアシスも。きっと見たら驚くよ」
――言葉を覚えるのだってはやかった。城に仕える者にふさわしい立ち居振舞いも身につけた。
「野盗に襲われたらすぐ逃げるんだよエルフリーデ。君は綺麗だから、またどこかへ売られてしまう」
「……わたし、きれいですか?」
「もちろん!」
――たまに見せてくれる笑顔に、俺はとりこになっしまった。
「あのさ、エルフリーデ。確かに野盗に情けをかける必要はないんだけど……でも山ごと魔法で焼き払うのはやり過ぎだ」
「すいません、火加減が分からなくて。森に申し訳ないことをしてしまいました」
「森に、ね」
――君は誰より知的で魔法の才に満ちて、今ではもう誰も敵わない。俺も教えてもらうことばかりだ。
「ユリアン様、新しいお茶をお淹れしました」
「すごい涼やかな香り。初めて飲むけど、すごく俺好みだな」
「よかった。そうではないかと思い、南の街で購入したのです」
――昏い瞳も乾いた髪も、ともに暮らすうちに濡れたように艶めいて。
「エルフリーデ、髪がだいぶ伸びたね」
「あの、ユリアン様。もうわたくしも子どもではございません。立場もわきまえております。ですから、手ずから梳いていただくのは……」
「これは俺のわがままだから」
――最初は哀れな少女を育ててあげようと、そんな思い上がった気持ちでいた。
――でも今、胸に満ちて溢れ出すのはもっと生々しい欲望だ。
「エルフリーデ、そろそろ君の夫を探さねばと思うんだけど」
「くだらないことを仰らないでください。私は魔科学の研究と……ユリアン様のお世話に忙しいのです」
「……そうか」
――出会った時からどうしても君が欲しかった。
――今も君がほしい。あの時よりも、もっと強く、醜く、切実に。
「君の頬は白雪のようだ。ふれたら溶けてしまいそうで怖くなる」
「別に……わたくしは消えたりしませんのに……」
――儚く失ったりしない。そう思い込んでいられた時はなんて幸せだったんだろう。
――ねぇ、エルフリーデ……。