目を瞠ったのは、エルフリーデが花を抱いて現れたからだ。

 ――あぁ、悔しいな。

 部屋にふくらんだ甘い香と大小の彩り――真紅、黄金、白、紺青、橙。

 両腕をめいいっぱい広げた彼女は、伸びきらぬ背丈のせいで花に顔をうずめるようだった。その白雪の(かんばせ)に張り付くのはいつものしかめ面で、きゅっと引き結んだ唇がどうにも愛おしい。

 ――いつだって君は美しくて、俺ばかりが君に夢中で。

「お待たせいたしました、ユリアン様」

 (あるじ)の物思いなど知らぬままエルフリーデは一礼し、ひゅっと口笛を鳴らした。

 音に応えて室内に風が起こる。彼女の手もとをさらってあざやかな花房(はなふさ)を巻き上げ、エルフリーデの黒髪をはらりと乱す。

 彼女が唱えると魔法までもが美しい。

「ユリアン様には本日より花言葉を覚えていただきます」

 風に乗った花々が彼の眼前に行儀よく並んでいた。