「爽太、どこ?」
背中を丸めて目を閉じたままの美緒が僕を呼んでいる。
「いるよ。すぐそばにいるよ。もうすぐだよ」
僕は声をかけ続けた。
「今行くからね。絶対大丈夫だから。そこでじっとしててね」
「こわい……」
「大丈夫。僕が一緒だから。大丈夫だよ」
不思議なことに、声をかけているとその相手との距離が縮まっていくらしい。
僕はいつの間にか彼女のところまで下りてきていた。
「ほら、大丈夫だろ」
すぐ耳元で僕の声が聞こえて安心したのか、ようやく美緒が目を開けた。
「爽太!」
次の瞬間、彼女がいきなり僕にしがみついてきた。
彼女の柔らかな体が僕にのしかかる。
思わずバランスを崩して落ちそうになるのを僕は必死にこらえた。
僕らはしばらく抱き合ったままでいた。
柔らかい女の子の体を僕はしっかりと抱きしめていた。
「絶対に離さないでね」
うん。
「大丈夫だよ」
「絶対だよ」
うん。
「守るから。僕が美緒を守るから。大丈夫だから」
まだ震える手で僕は美緒の背中をさすり続けた。
それからどうやって二人で下りてきたのか、あまり記憶がない。
ただ、翌日みんなに盛大にからかわれたことだけは覚えている。
「おまえら抱き合ってたろ」
島はせまい。
守り神の神社は集落のどこからでも見える。
翌朝登校したときにはすでにもう噂は広まっていた。
教室で美緒と言葉を交わそうとするだけでいちいち視線が集まるようになっていた。
「いいじゃんべつに。何も悪いことなんかしてないんだし」
美緒の方は何も気にしていないようだったけど、あの日以来、僕は彼女との距離を意識するようになっていた。
自分の中に芽生えた汚い自分に美緒を触れさせてはいけない。
美緒を守らなければならない。
美緒を傷つけようとする暗く汚い自分から美緒を守るのは僕自身なのだ。
僕はもう二度と美緒に触れることができないような気がしていた。
触れてみたいけど、触れてはいけない存在。
触れたら無くなってしまう虹色のシャボン玉。
そんな美緒の笑顔だけは、いつも僕の視線の先にあった。
背中を丸めて目を閉じたままの美緒が僕を呼んでいる。
「いるよ。すぐそばにいるよ。もうすぐだよ」
僕は声をかけ続けた。
「今行くからね。絶対大丈夫だから。そこでじっとしててね」
「こわい……」
「大丈夫。僕が一緒だから。大丈夫だよ」
不思議なことに、声をかけているとその相手との距離が縮まっていくらしい。
僕はいつの間にか彼女のところまで下りてきていた。
「ほら、大丈夫だろ」
すぐ耳元で僕の声が聞こえて安心したのか、ようやく美緒が目を開けた。
「爽太!」
次の瞬間、彼女がいきなり僕にしがみついてきた。
彼女の柔らかな体が僕にのしかかる。
思わずバランスを崩して落ちそうになるのを僕は必死にこらえた。
僕らはしばらく抱き合ったままでいた。
柔らかい女の子の体を僕はしっかりと抱きしめていた。
「絶対に離さないでね」
うん。
「大丈夫だよ」
「絶対だよ」
うん。
「守るから。僕が美緒を守るから。大丈夫だから」
まだ震える手で僕は美緒の背中をさすり続けた。
それからどうやって二人で下りてきたのか、あまり記憶がない。
ただ、翌日みんなに盛大にからかわれたことだけは覚えている。
「おまえら抱き合ってたろ」
島はせまい。
守り神の神社は集落のどこからでも見える。
翌朝登校したときにはすでにもう噂は広まっていた。
教室で美緒と言葉を交わそうとするだけでいちいち視線が集まるようになっていた。
「いいじゃんべつに。何も悪いことなんかしてないんだし」
美緒の方は何も気にしていないようだったけど、あの日以来、僕は彼女との距離を意識するようになっていた。
自分の中に芽生えた汚い自分に美緒を触れさせてはいけない。
美緒を守らなければならない。
美緒を傷つけようとする暗く汚い自分から美緒を守るのは僕自身なのだ。
僕はもう二度と美緒に触れることができないような気がしていた。
触れてみたいけど、触れてはいけない存在。
触れたら無くなってしまう虹色のシャボン玉。
そんな美緒の笑顔だけは、いつも僕の視線の先にあった。