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 僕の方が美緒より頭半分大きくなったのは中学の時だった。

 背伸びして僕の頭を押さえつけようとするとき、いつも彼女の口がアヒルのくちばしみたいになっていたのを覚えている。

 中二の冬だった。

 僕はタカシ先輩に「顔貸してくれ」と呼び出された。

 体育館の裏についていくと、先輩のツレが何人かいた。

 先輩が立ち止まって僕と向き合う。

 すかさずまわりを取り囲まれた。

 僕の顔をのぞき込むように先輩がたずねた。

「なあ、おまえさ、美緒と仲いいんだろ」

「ええ、まあ」

「つきあってんのか?」

「いえ、そういうわけでは」

「じゃあ、いいんだよな?」

 え、何が……ですか?

「オレよ、コクろうかと思ってんだけどよ、かまわねえよな」

「え、告白って……、なんでですか?」

 反抗的な意味とかではなく、僕は単純に意味が分からなかったのだ。

 告白とかそういうことをしたこともされたこともなく、この世の中に本当にそんなものが存在するということすら実感がなかったのだ。

 しかも、その相手が美緒だということも、僕の思考を停止させるのに十分だった。

 先輩の顔が急に赤くなる。

 火の玉みたいな顔で先輩が僕を怒鳴りつけた。

「好きだからに決まってんだろうがよ」

 僕は完全に硬直していた。

 時が止まるとはこういうことなんだなと、まるで幽体離脱してこの光景を眺めている感覚だった。

「おい、てめえ、何か言えよ」と、先輩のツレに背中を押された。

 言うこと……って、何かあるだろうか。

 本当に頭の中が真っ白で美緒の顔すら思い浮かばなかった。

 あれ?

 美緒?

 ようやく思い浮かんだのは小三の時の美緒だった。

『爽太のことが好きって言ったの私だけってひどくない?』

 頬を膨らませながら悔しそうな顔をしていた美緒だ。

 あの時は単なる幼なじみとしての意味だったんだろうし、思春期男女が使う言葉としてのものとは全然違っていたんだろう。

 だけど、僕と美緒はずっと一緒にいて、それがすべての答えだったんじゃないだろうか。

 でも、僕には確信がなかった。

 僕が勝手に決めていいことなのかどうかも分からなかった。

「じゃあ、そういうことだからよ」

 僕が何も答えなかったのを承諾と受け取ったのか、先輩たちが去っていった。

 体が震えていた。

 取り囲まれた恐怖と、無意識だった感情に気づいてしまったことが同時に僕を押しつぶそうとしていた。

 息が苦しくてふらつきながら僕は校舎に戻った。