◇◇
最後の石段を上がる。
赤い鳥居をくぐると世界が切り離されたような気がした。
美緒が振り返る。
僕も同じ景色を眺めた。
対岸の街はいつの間にか夕暮れの光に染まり始めている。
尾を引くような汽笛を鳴らして漁船が港に返ってくる。
僕たちの前には山に隠れた半分だけの夕暮れ空が広がっていた。
いつも見ていたあの空だ。
「おかえり、爽太」
振り向くと美緒が両腕を広げていた。
まるで島のように……。
包み込むような腕で、帰ってくる者を出迎えてくれる島のように……。
美緒が両手を広げている。
飛び込めばいい。
抱きしめてしまえばいい。
なのに僕はその手に触れるのをためらってしまった。
飛び込んで思い切り美緒を抱きしめることは僕にはできない。
いくらお互いの名を呼び合ったとしても、もうその距離は縮まらないんだ。