ドライヤーで髪を乾かしていたら、テーブルの上のスマホが光った。

 美緒が置きっぱなしにしていって、いろんなメッセージが届いているのが見えてしまう。

 伏せておくのもかえって意識しすぎたみたいで気まずいし、かといって盗み見するのも落ち着かない。

 僕は布団の用意をしておくことにした。

 さすがに一緒の部屋はまずいだろうから、不在の父親の部屋を使うことにした。

 押し入れに予備の布団もあったはずだ。

 ベッドが良ければ僕の部屋で寝てもらえばいい。

 久しぶりに畳の部屋に布団を敷くと、なんとなく大の字になってみたくなる。

 はあ。

 なんかいろいろあったせいか疲れてしまった。

 体力的というよりは精神的な疲れだ。

 朝から美緒に振り回されてばかりだった。

 無邪気な彼女を真っ正面から受け止める余裕なんか今の僕にはないんだ。

 窓をたたく雨の音に混じって浴室からかすかに鼻歌が聞こえてくる。

 なんだか子守歌みたいだ。

 美緒との間にあったいろいろな思い出がよみがえってくる。

 ちょっとのつもりで布団をかけて休もうとしたのが良くなかったらしい。

 美緒がお風呂から出てきたとき、僕は眠ってしまっていた。

 しかも、「んごっ」と恥ずかしいいびきまでかいていたそうだ。

 なぜそれを知っているかというと、美緒がスマホでビデオを撮ってSNSにアップしていたからだ。

『爽太爆睡中w』

 高校の同級生はもちろん、島の知り合いにも僕の無防備な寝顔が流れてしまったらしい。

 翌朝、まだ波は高かったけど、連絡船は動き出していた。

 島から渡ってきたタカシ先輩に港で会ったとき、哀れみの目で肩を叩かれた。

「お疲れ、爽太」

 どうやら僕は無害な男だと認定されたようだった。