「夕飯どうしようか」と、美緒が指先をなめた。

 まだ昼過ぎだし、今食べたばかりだろ。

「夕方になればうちの母親も帰ってくるから大丈夫だよ」

 母親は車通勤で帰りにスーパーで買い物をしてくる。

 あとでスマホにメッセージを入れておけば、美緒の分も買ってきてくれるだろう。

「コタツあるといいのにね」と、美緒がリビングを見回す。

「ホットカーペットで我慢してよ」と、目盛りを最大にした。

「なんか横になって寝ちゃいそう。試験勉強できないなぁ」

「コタツだって寝るだろうに」

 美緒は僕のツッコミは無視してテーブルの上にスマホと水を吸ってよれよれになった問題集を広げた。

 彼女のスマホには母親から安否を気づかうメッセージが入っていた。

「今日、泊めてもらっていいんだよね」

 なんでもないことのように美緒がつぶやいた。

 僕には大問題だった。

 女子を家に泊めるなんて不健全だろうけど、今は非常事態だし、親が帰ってくるんだからなんの問題もないとも言えるし、かえって意識しすぎなのかもしれない。

 僕はただ困っている知り合いを家に呼んだだけなのだ。

 返事を引き延ばして葛藤に気づかれたらまたからかわれるだろう。

 とりあえずうなずいておくことにした。

「うちの親はダメとは言わないと思うよ」

 美緒が『爽太の家に泊まる』と返信すると、すぐに『ご迷惑にならないようにね』と戻ってきた。

「ハイハイ」とうなずくだけで返信をしない。

 伝わらないだろとツッコミを入れようとしたところで、また美緒のスマホが光った。

 タカシ先輩だった。

 先輩は工業高校の公欠扱いが決まって昼まで寝ていたらしい。

 まあ、それが普通だろう。

 島の人たちは自然には逆らわない。

 彼女が『学校に来た』と返信すると、またすぐにスマホが光った。

『船動いてるのか』

『止まってる』

『どうすんだよ』

『わかんない』

 そう返信するなり彼女は電源を切った。

「メンドクサイ」

「いいの?」

「だって、先のことなんて分からないのに聞かれても答えようがないじゃん」

 まあ、たしかにそうだけど。

「返信がないと心配するんじゃない?」

「明日も試験あるし」

 美緒はまた問題集に取りかかった。