◇

 高校生になると、今度は島の生徒が本土側に取り残されることになる。

 二年生の十二月、期末試験の二日目だった。

 前日からすでに天気予報では翌日の午後から大荒れになると警報が出ていた。

 島の生徒はその段階で朝から公欠扱いで、後日追試を実施すると高校から一斉連絡が入っていた。

 それなのに美緒が登校してきたのには驚いた。

 朝一の連絡船は動いていたらしい。

「大丈夫なの?」

「だってせっかく勉強したから、覚えたこと忘れたくないし」

 気持ちは分からなくはなかったけど、予報通り、二科目の試験が終わって下校時刻になった頃には雨が激しくなっていた。

 横風が強くて傘も役に立たないような状態で一緒に港までたどり着いたときには、やはり欠航の掲示が出ていて、つながれた無人の船が遊園地のアトラクションみたいに揺れていた。

 すっかりびしょ濡れで体も冷え切っていて、何も考えが思いつかなかった。

「どうする?」

「寒いね」

 美緒はいつもこうだ。

 その場で思いついた感想しか言わない。

「とりあえずうちに来る?」

「そうだね。夜までにはおさまるかもしれないし」

 自然はそんなに甘くない。

 たとえ雨や風がやんでも波のうねりはしつこく残る。

 美緒だってそれは分かっているはずだった。

 僕らは港のそばにあるコンビニで昼食用に温かい中華まんとホットドリンクを買った。

 その場で食べればいいのに、彼女は僕の家に着いてから食べると言い張った。

 電子レンジで温めれば済むことだから、反論せずに家に急いだ。

 家にはいつものように誰もいなくて、美緒が体操服とジャージに着替えるというので、ついでにシャワーで体を温めた方がいいと提案した。

「一緒に入る?」と、なんでもないことのように美緒がつぶやいた。

 顔が熱くなる。

「冗談言ってる場合じゃないだろ」と返すのが精一杯だった。

「狭いから無理か。残念」

 人の家をそんなふうに言うなよと釘を刺す余裕もなく、バスタオルを押しつけて退散した。

 自分も部屋で体を拭いて着替えたけど、浴室から聞こえてくるシャワーの音がどうしても気になってしかたがなかった。

 電子レンジで肉まんを温めてリビングのテーブルに置いたところで美緒がジャージに着替えて出てきた。

「わぁ、ありがとう」

「ドリンクは温める?」

「グビグビやりたいからいいよ」と、もう喉を鳴らしていた。「プハーッ! 生き返るねえ」

 オッサンかよとツッコミ待ちみたいだったので僕はもそもそと肉まんを頬張った。

 ちょっと口をとがらせてから彼女も肉まんに手をつけて、「あったかいね」と微笑んだ。

 ――あいかわらずかわいいよ、美緒は。

 僕は肉まんと一緒にその言葉を飲み込んだ。