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かなり高いところまで登ってきた。
廃校に残る木造校舎の三角屋根が傾いてきた日差しを反射してきらめいている。
美緒がまた石段に腰掛けた。
足を投げ出すようにのばして大きなおなかをさすっている。
――無理しないようにね。
「大丈夫、怖くないから」
僕が差し伸べた手に気づかないのか、美緒は眼下の港を見つめている。
手を伸ばせば届くのに、触れあえない距離。
赤と白、港にたたずむ二つの灯台みたいに、僕らはいつもお互いの距離を測ってばかりいたよね。
「さてと」と、美緒が立ち上がる。
――気をつけてね。
「あともう少し」
右手でおなかを抱えて、左手は石段につきながら、美緒は残りの階段を登り始めた。