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朝は空回りについてないと思いつつ、昼から運が向いてきたミミ。その日の午後、しっかりとロクと買い物して白いかわいらしいワンピースを手に入れた。ロクの見立てでもあり、助手としての働きの見返りでもあった。
「本当に買って貰ってよかったの?」
ミミは服の入った袋を力強く握り締め喜びを隠し切れない。
「買った後で何度も聞かなくていいよ。でもそういう白い服持ってなかったっけ?」
「ううん。こういうかわいらしいのは初めて」
たまたまセール品を見ていたときに、ラックに掛かっていた服をどこかで見たことあるとロクが手に取ったのがきっかけで、ミミが即気にいったものだ。
買い物客で賑わう人だかりの中を歩きながら周りを見れば、他の店に並んでいる白いドレスが目に入る。やはりそれも同じようなものに見えるから違いなど自分にはわからないとロクはふっと笑っていた。
「あっ、逸見さんとミミさんじゃありませんか」
声を掛けられてふたりが振り返れば、派手なアロハシャツを着たサングラスの男が目に入った。
「おっす!」
その隣で元気に挨拶する祥司。
「ああ、瀬戸さん。どうもこんにちは。昨日はすみませんでした」
ロクが挨拶する。
「何をおっしゃるやら、それはこっちの台詞ですがな。とにかく、本当に助かりました。お陰で今は調子に乗られて、このざまですけど」
両手の荷物を見せていた。
「祥司君のおもちゃかな?」
ミミが訊くと、うれしそうに祥司は「うん」と返事した。そして前方にあった服屋にすぐ気を取られていた。
「お父さん、あの服見て。あれ、ママに似合いそう」
「もう、あかんて。予算オーバーやて」
「でもさ、もうすぐ参観日だよ。いい服着てふたりで見に来てよ」
「どうやろうな。ママ、仕事忙しいからいけるかまだわからんで」
「ええ、ふたり一緒じゃなきゃ、いやー」
祥司は不服そうだ。その裏で本当の父と分かったことをとても喜んでいるのが伝わる。
「ママは明日帰ってくるから、それまでちょっと待っとき」
瀬戸の見かけは怖いが、親子の会話は聞いてて笑みが浮かんでくる。
「そしたらさ、お兄ちゃんとお姉ちゃんも来てよ。多い方が僕もなんか応援されてるみたいでやる気でるし」
「親族の人しか無理なんじゃ」
ロクがいうと、瀬戸は「それはええやんか」と賛成する。
「逸見さんとミミさんも是非是非いっしょに参観日行きましょ。俺が見に行くと、親御さんたち誰も話しかけてくれへんしなんか気まずくて寂しいんですわ。一緒に行ってくれたら心強いですわ」
修羅場を潜ってきたような人が、参観日を恐れている。
「でも、よそ者が行っていいんですか?」
「それは大丈夫。俺の親戚やいうたらわかりませんって」
それも困ると、ロクとミミは顔を見合わせた。
「だけど私、子供たちの授業風景見てみたいな」
「でっしゃろ、ミミさん、是非是非来てやってください」
「僕のクラスは三年二組だよ」
「祥司君、三年生なの? もしかして久太郎君って子、知ってる?」
「ああ、久ちゃんか。うん、同じクラスだよ……あっ、もしかして久ちゃんが言っていた魔法使いって、お兄ちゃんのこと?」
祥司ははっとした。
「なんや、祥司、魔法使いって」
「久ちゃんがいうには、このお兄ちゃん、魔法が使えて色々と人を助けるんだって」
「ああ、それやったら確かに、逸見さんは魔法使いかもしれませんな」
瀬戸も納得していた。
「あっ、そうだ、祥司君、久太郎君の消しゴム見つかったか聞いてないかな?」
ロクはあの消しゴムがどうなったか知りたくなった。
「消しゴム? ああ、あのことだね。お兄ちゃんが魔法をかけたことですごいことになってたよ」
「すごいこと?」
ロクが首を傾げると、祥司は一生懸命説明し始めた。だが、話し方が下手で要領を得ていない。
「なんか、祥司の話長くなりそうやな。そうや、折角ここで会ったことやし、お茶でも飲みませんか」
瀬戸が提案し、フードコードに行くことになった。
こどもの日の休日は込み合っていたが、瀬戸が現れると不思議と人がよけて、空きのテーブルが忽然と現れる。
「詰めてもうて、えらい、すいませんな。みんなここ空いたで」
瀬戸に言われ、ロクとミミに視線が集まった。
ふたりが恐縮している側で、祥司は満面の笑みで父の元へと行った。
「それじゃ、なんか買ってきますわ」
瀬戸がいうと、ミミも一緒についていく。
ロクと祥司はその間テーブルについて、話をし始めた。やっぱり何度聞いてもロクは眉間に皺を寄せていた。
朝は空回りについてないと思いつつ、昼から運が向いてきたミミ。その日の午後、しっかりとロクと買い物して白いかわいらしいワンピースを手に入れた。ロクの見立てでもあり、助手としての働きの見返りでもあった。
「本当に買って貰ってよかったの?」
ミミは服の入った袋を力強く握り締め喜びを隠し切れない。
「買った後で何度も聞かなくていいよ。でもそういう白い服持ってなかったっけ?」
「ううん。こういうかわいらしいのは初めて」
たまたまセール品を見ていたときに、ラックに掛かっていた服をどこかで見たことあるとロクが手に取ったのがきっかけで、ミミが即気にいったものだ。
買い物客で賑わう人だかりの中を歩きながら周りを見れば、他の店に並んでいる白いドレスが目に入る。やはりそれも同じようなものに見えるから違いなど自分にはわからないとロクはふっと笑っていた。
「あっ、逸見さんとミミさんじゃありませんか」
声を掛けられてふたりが振り返れば、派手なアロハシャツを着たサングラスの男が目に入った。
「おっす!」
その隣で元気に挨拶する祥司。
「ああ、瀬戸さん。どうもこんにちは。昨日はすみませんでした」
ロクが挨拶する。
「何をおっしゃるやら、それはこっちの台詞ですがな。とにかく、本当に助かりました。お陰で今は調子に乗られて、このざまですけど」
両手の荷物を見せていた。
「祥司君のおもちゃかな?」
ミミが訊くと、うれしそうに祥司は「うん」と返事した。そして前方にあった服屋にすぐ気を取られていた。
「お父さん、あの服見て。あれ、ママに似合いそう」
「もう、あかんて。予算オーバーやて」
「でもさ、もうすぐ参観日だよ。いい服着てふたりで見に来てよ」
「どうやろうな。ママ、仕事忙しいからいけるかまだわからんで」
「ええ、ふたり一緒じゃなきゃ、いやー」
祥司は不服そうだ。その裏で本当の父と分かったことをとても喜んでいるのが伝わる。
「ママは明日帰ってくるから、それまでちょっと待っとき」
瀬戸の見かけは怖いが、親子の会話は聞いてて笑みが浮かんでくる。
「そしたらさ、お兄ちゃんとお姉ちゃんも来てよ。多い方が僕もなんか応援されてるみたいでやる気でるし」
「親族の人しか無理なんじゃ」
ロクがいうと、瀬戸は「それはええやんか」と賛成する。
「逸見さんとミミさんも是非是非いっしょに参観日行きましょ。俺が見に行くと、親御さんたち誰も話しかけてくれへんしなんか気まずくて寂しいんですわ。一緒に行ってくれたら心強いですわ」
修羅場を潜ってきたような人が、参観日を恐れている。
「でも、よそ者が行っていいんですか?」
「それは大丈夫。俺の親戚やいうたらわかりませんって」
それも困ると、ロクとミミは顔を見合わせた。
「だけど私、子供たちの授業風景見てみたいな」
「でっしゃろ、ミミさん、是非是非来てやってください」
「僕のクラスは三年二組だよ」
「祥司君、三年生なの? もしかして久太郎君って子、知ってる?」
「ああ、久ちゃんか。うん、同じクラスだよ……あっ、もしかして久ちゃんが言っていた魔法使いって、お兄ちゃんのこと?」
祥司ははっとした。
「なんや、祥司、魔法使いって」
「久ちゃんがいうには、このお兄ちゃん、魔法が使えて色々と人を助けるんだって」
「ああ、それやったら確かに、逸見さんは魔法使いかもしれませんな」
瀬戸も納得していた。
「あっ、そうだ、祥司君、久太郎君の消しゴム見つかったか聞いてないかな?」
ロクはあの消しゴムがどうなったか知りたくなった。
「消しゴム? ああ、あのことだね。お兄ちゃんが魔法をかけたことですごいことになってたよ」
「すごいこと?」
ロクが首を傾げると、祥司は一生懸命説明し始めた。だが、話し方が下手で要領を得ていない。
「なんか、祥司の話長くなりそうやな。そうや、折角ここで会ったことやし、お茶でも飲みませんか」
瀬戸が提案し、フードコードに行くことになった。
こどもの日の休日は込み合っていたが、瀬戸が現れると不思議と人がよけて、空きのテーブルが忽然と現れる。
「詰めてもうて、えらい、すいませんな。みんなここ空いたで」
瀬戸に言われ、ロクとミミに視線が集まった。
ふたりが恐縮している側で、祥司は満面の笑みで父の元へと行った。
「それじゃ、なんか買ってきますわ」
瀬戸がいうと、ミミも一緒についていく。
ロクと祥司はその間テーブルについて、話をし始めた。やっぱり何度聞いてもロクは眉間に皺を寄せていた。