キーンコーンカーンコーンと遠くの方でチャイムが鳴った。

 8時のチャイムだ。

 その音を、舞花は懐かしそうに聞いた。

 残響まで楽しむように聞いていた。

 再び静けさが戻ると、舞花は目尻をふにゃりとさせて僕に微笑みかける。

 懐かしい感覚が、じわじわと僕の中からあふれ出す。

 会えなくても忘れたことなんてなかった。

 舞花のことも、この気持ちも。


「相変わらずここで練習してるんだ」

「う、うん」

「ここ、全然変わってないね」


 舞花は懐かしそうにあたりを見渡した。

 舞花がこの町を去って3年。

 確かにここは何も変わっていない。
 
 小学校も、ここの公園の遊具も、バスケットコートも。
 
 久しぶりに会った舞花に話したいことや聞きたいことは山ほどあった。

 それなのに、思うように言葉が出てこない。

 それに、僕には時間がなかった。


「お……、俺、これから朝練なんだよね」

「そ、そっか。ごめん、練習の邪魔して」

「いや、邪魔なんかじゃないけど」

「でも、久しぶりに会えてよかった」


 俺もそう思う。

 また会いたい。

 もう一度会いたい。


「「あのっ……」」


 二人の声が重なった。

 お互いがお互いの出方をうかがうように待っているのを目で確認し合った。

 その口火を切ったのは、舞花の方だった。


「明日も、ここで練習してる?」

「う、うん」

「そうなんだ……。あのっ、明日も、来ていい?」

「う、うん。いいけど」

「ほんと?」

「うん。……6時から、来てるから」

「うん、わかった」

「じゃあ、俺、行くわ」

「うん、頑張ってね。また明日」

「うん、また、明日」


 そうして僕は自転車にまたがった。

 緩もうとする口元を引き上げながら、僕はペダルに乗せる足に力を込めた。