ある時舞花が言った。


「お父さんとお母さんも、ゲーム一緒にやろうよ」


 舞花は自分の持っていたコントローラーを、他の作業をしていた僕たちの手元に押し付けてきた。

 舞花からゲームに誘われるのは久しぶりだった。

 それもそうだろう。

 今考えれば、舞花にとって僕とのゲームの時間なんて全然楽しいものではなかったはずだから。

 だから僕自身も、スマホ以外のコントローラーを握るのは久しぶりで、その操作方法に手間取った。
   
 僕が操作に苦戦していると、舞花は楽しそうに笑った。


「もう、ここはこうだよ」「お父さん全然だめじゃん」「なんでできないの?」


 そんな風に無邪気に笑った。


「初めてやるんだからしょうがないじゃないか」


 舞花の指摘に本気で苛立つ自分の声にはっとした。

 自分で言ったその言葉に、胸が張り裂けそうな思いをした。


__「どうしてこんなこともできないんだ?」

__「なんでわからないの?」

__「考えればわかるだろ」


 以前僕が舞花に投げつけた言葉たちだ。

 舞花のように、冗談っぽく、笑ってではない。

 苛立ちと共に、本気で、そうぶつけていた。

 でもすべては、舞花のためだった。

 舞花が将来困らないように。

 舞花の可能性を広げて……


 だけどそんな僕とゲームをして、舞花が楽しかったわけがない。


 僕はちらりと舞花の顔を見た。


「ここを抑えながらこうやって振るんだよ」


 舞花は僕が握るコントローラーの上から手を添えて、丁寧に操作を教えてくれた。

 何度教えられてもできない僕に、舞花は何度も何度も教えてくれた。

 その得意気な笑顔と、優しい声と、小さくてひんやりとした手に、目頭が熱くなるのを感じた。


__「こんなこと、考えればわかるだろう」

__「どうしてわからないんだ? もう小6だぞ」


 舞花が僕にかける優しい言葉と眼差しに比べて、自分が舞花にぶつけた言葉は、なんて暴力的だったんだろう。


 もう小六。


 だけど舞花は、まだ、小六だった。


 四十年生きている僕たちと、まだ十二年しか生きていない彼女の間に、「当たり前」の格差があって当然なのに。

 僕たちが当たり前だと思っていることや当然のようにできることは舞花にだってできると、どうして思ったんだろう。

 どうして自分たちと同じ土俵に立たせようとしたんだろう。

 舞花には、まだまだ知らないことの方が多いのに。

 どうして大人の僕たちは、そんなこともわからなかったんだろう。