(でも、神威って……)

〝神威〟は違法に現世に赴き、人間狩りや悪行を働こうとする妖や邪神の捕縛や殲滅(せんめつ)が主な仕事で、違法に帝都に侵入した人の捕縛も任されている精鋭部隊だ。

加えて帝都吉原の管理も、神威に一任されていると聞く。

任務を遂行するためならどんな汚い手も使い、悪人に一切の情けをかけないことから、現世でも『神威にだけは関わるべからず』という教えがあるほどだった。

(じゃあ、もしかして黒い靄をまとった姿が、神威の将官である彼の本性?)

大蜘蛛を叩き斬ったときの咲耶は、思わず目を逸らしてしまいたくなるような、禍々しい空気を身にまとっていた。

しかし半面、桜の木の下で微笑む咲耶や、吉乃を抱いて歩く彼は終始穏やかで、優しかったのも事実だ。

(どちらが本当の咲耶さんなんだろう……)

わからない。

自身を呪われた身だと苦しげに言った彼も、吉乃を自分の花嫁だと言った彼も、なにひとつ真意を掴ませてはくれなかった。


「吉乃さん? 大丈夫ですか?」


ぼんやりと咲耶のことを考えていた吉乃の顔を、琥珀が心配そうに覗き込んだ。


「兎にも角にも、ここでいつまでも立ち話をしているのもなんですし、中に入りましょう。これからのことを、より丁寧にご説明させていただきます」


そうして吉乃は琥珀に促されるまま、紅天楼の中に足を踏み入れた。

手の中のとんぼ玉は相変わらず、咲耶の髪色と同じ薄紅色の光をまとっていた。