「せっかくだから、ゴハン食べながら可愛い後輩クンの相談に乗ってあげる☆
 お姉さんに何でも話してごらん? ん?」

「……はあ」

 旧知の仲の先輩に、相談に乗ってもらえるのはありがたい。……が、何だろうか? 兄と接する時のようなデジャビュ感は。
 小川先輩、案外兄といいコンビになるかもしれない。――先輩には失礼かもしれないが、僕はこっそりそう思っていた。

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「――桐島くん、最近どう? 秘書の仕事には慣れた?」

 牛丼屋のテーブル席で、僕と向かい合わせに座っていた先輩は、豚丼並盛(+温玉サラダセット)をスプーンでかっこみながら僕に訊ねた。
 食べているメニューといい、食べ方といい、まったくもって色気がないのだが、それを美人の先輩がやってのけているからあまり下品に見えなかったのが不思議である。

「ええ、まあ。ボチボチですかね」

 僕は特盛牛丼に紅ショウガをたっぷり乗せて箸で食べながら、正直に答えた。

「秘書って覚えること多くて大変でしょ? 私も最初の頃はそうだったなー。逃げ出したくなったことないの?」

「ないです。一度も」

「一度も? そっか、そうだよねー。愛しい絢乃さんのためなら、何だってできちゃうよね」

「…………」

 ドヤ顔で放たれた先輩の言葉に、反論の余地はなかった。思いっきり図星だったからである。

「確かに、総務にいた頃より今の方が大変は大変なんですよ。ハードワークだし、絢乃さんの送迎だって秘書の仕事っていうより運転手じゃないですか。でも……、先輩の言うとおりなんです。彼女のためだと思えば、全然苦にならないんです」

「なるほどね、恋のチカラは偉大ってわけだ。……で? あなたは彼女とどうなりたいと思ってるの?」

「どう……って言いますと?」

「そうね……、たとえばバレンタインにチョコをもらったら、お返しはどうするとか。そのチョコ、絶対本命だと思うよ? 間違いない!」 

 僕は目を見開いた。多分、彼女は直接絢乃さんから僕への気持ちを聞いたことはなかったはずだ。
 女性のカンというのは(あなど)れない。

「……えーっと、ホワイトデーのことは何もおっしゃってませんでしたけど。お誕生日のプレゼントは期待されてるご様子でした」

「あらあら! 好きな人からのプレゼントって、女は期待しちゃうもんよ。桐島くん、責任重大ね」

「先輩……、ヘンなプレッシャーかけないで下さいよ」

 僕は先輩を恨みがましく睨んだ。
 女性へのプレゼント、にはトラウマがある。学生時代、付き合っていた彼女にプレゼントでドン引きされたことがあったのだ。そのことを、彼女も知っていたはずなのに……。