僕はスイーツ男子だし、絢乃さんのスイーツ作りの腕も知っていたので、彼女がバレンタインデーにどんなチョコスイーツを下さったとしてもありがたく、そして美味しく頂くつもりでいたのだが。
彼女は「初めてのバレンタインにガトーショコラは重いかな」と悩んでいらっしゃったらしい。……そんなところまで可愛らしく、僕は愛おしくて仕方がないのだ。
「――会長、その本は……。もしかして、経営のお勉強を?」
僕は今気づきました、という風にさりげなく、別の話題へ持っていった。
彼女は学校のお勉強に会長のお仕事に、とご多忙なうえに、経営のお勉強までなさっていた。
僕が心配になって、「あまりご無理はなさらないで下さい」と言うと、彼女は感謝の言葉とともに「真摯に受け止めます」とおっしゃった。
人間、ひとりでできることには限度というものがある。ましてや彼女は、真面目すぎるせいですべてをご自身で抱え込んでしまうような人だった。
だから僕は秘書として、一人の男として、彼女にはもっと僕に頼ってほしい、甘えたり弱音を吐いたりしてほしいと思っていた。
「――さて、僕もボチボチ資料作成にかかりますかね」
僕は自分の席へ戻り、会議に使う資料の作成に取り掛かり始めた。
彼女はというと、残っていたガトーショコラとコーヒーをお供に、また新たに受信した社内メールに目を通し、返事を返していた。
****
――その日は絢乃会長の〝終業時間〟である夕方六時に僕も退社した。
彼女を自由ヶ丘のご自宅までお送りした後、まだ早い時間だったため、アパートへ帰る前に代々木にある書店へ立ち寄った。
「――う~~ん……、〝オフィスラブ〟のお手本ってどんなのだ?」
僕が向かったのは、いわゆる女性向けの恋愛小説が並ぶコーナーだった。
棚にはピンク色その他、女子受けがよさそうなカラーバリエーションの背表紙の文庫本がズラリ。その中でも人気があるらしいジャンルの一つが、〝オフィスラブ〟らしい……のだが。
「……ドS? 俺様? 御曹司? どれも俺とは無縁じゃん」
そういう小説に登場するヒーローで人気がありそうなのは、僕自身とは正反対の男がほとんどだったので、僕はどっと落ち込んだ。
僕は御曹司なんかではないし、ドSでもないし(むしろMかもしれない)、俺様でももちろんない。
こんなの参考になんかなりゃしないし、僕みたいな平々凡々な男が〝オフィスラブ〟なんかしていいのだろうか……? 僕は自信をなくしかけていた。
もちろん、絢乃さんの好きな男のタイプもこんなの(失敬!)だとは限らなかったのだが……。
「――桐島くん? 何してんの、こんなところで」
唐突に背後からかかった声に、僕はビクッと飛び上がった。
彼女は「初めてのバレンタインにガトーショコラは重いかな」と悩んでいらっしゃったらしい。……そんなところまで可愛らしく、僕は愛おしくて仕方がないのだ。
「――会長、その本は……。もしかして、経営のお勉強を?」
僕は今気づきました、という風にさりげなく、別の話題へ持っていった。
彼女は学校のお勉強に会長のお仕事に、とご多忙なうえに、経営のお勉強までなさっていた。
僕が心配になって、「あまりご無理はなさらないで下さい」と言うと、彼女は感謝の言葉とともに「真摯に受け止めます」とおっしゃった。
人間、ひとりでできることには限度というものがある。ましてや彼女は、真面目すぎるせいですべてをご自身で抱え込んでしまうような人だった。
だから僕は秘書として、一人の男として、彼女にはもっと僕に頼ってほしい、甘えたり弱音を吐いたりしてほしいと思っていた。
「――さて、僕もボチボチ資料作成にかかりますかね」
僕は自分の席へ戻り、会議に使う資料の作成に取り掛かり始めた。
彼女はというと、残っていたガトーショコラとコーヒーをお供に、また新たに受信した社内メールに目を通し、返事を返していた。
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――その日は絢乃会長の〝終業時間〟である夕方六時に僕も退社した。
彼女を自由ヶ丘のご自宅までお送りした後、まだ早い時間だったため、アパートへ帰る前に代々木にある書店へ立ち寄った。
「――う~~ん……、〝オフィスラブ〟のお手本ってどんなのだ?」
僕が向かったのは、いわゆる女性向けの恋愛小説が並ぶコーナーだった。
棚にはピンク色その他、女子受けがよさそうなカラーバリエーションの背表紙の文庫本がズラリ。その中でも人気があるらしいジャンルの一つが、〝オフィスラブ〟らしい……のだが。
「……ドS? 俺様? 御曹司? どれも俺とは無縁じゃん」
そういう小説に登場するヒーローで人気がありそうなのは、僕自身とは正反対の男がほとんどだったので、僕はどっと落ち込んだ。
僕は御曹司なんかではないし、ドSでもないし(むしろMかもしれない)、俺様でももちろんない。
こんなの参考になんかなりゃしないし、僕みたいな平々凡々な男が〝オフィスラブ〟なんかしていいのだろうか……? 僕は自信をなくしかけていた。
もちろん、絢乃さんの好きな男のタイプもこんなの(失敬!)だとは限らなかったのだが……。
「――桐島くん? 何してんの、こんなところで」
唐突に背後からかかった声に、僕はビクッと飛び上がった。