それに気づき、改革しようとお考えになった彼女の着眼点はすごい。女性ならではの視点なのか、そうではないのかは僕にも分からないが……。

「ありがとう! じゃあ、次の会議の議題はこれでいきましょう。会議は……そうね、来週の月曜日くらいでいいかしら」

 この日は木曜日だったので、三日もあれば十分な資料が作成できる。彼女から与えられた猶予が、僕にはありがたかった。
 何せ、総務にいた頃には自分の仕事と並行して、課長の仕事まで押し付けられていたのだ。それも、「明日までに」などと無茶な期限をつけられて。

「はい、ではこの後さっそく、草案の作成に取り掛かります。――会長、決裁が済んでいない案件はあとどれくらい残っていますか?」

「今日は少なかったから、今のところは全部終わったかな。――桐島さん、コーヒーをお願い。いつものね」

 大きな仕事はひと段落ついたので、会長は休憩を挟みたいとおっしゃった。

「はい、了解です。――あ、そうだ。今日は取引先から頂いた美味しいケーキがあるんで、一緒にお出ししますね」

 その日はコーヒーだけでなく、彼女もお好きなスイーツもあった。時にはこういう特別な日があってもいいと思うのだ。
 ただでさえ、彼女は学業と経営業を両立させていてお忙しい身なのだから、糖分を摂ってリフレッシュして頂きたかった。

「わあ、嬉しい! ありがとう!」

「では、少しお待ちくださいね」

 彼女の可愛らしいはしゃぎっぷりに、僕は頬が緩むのを抑えきれたかどうか……。

 給湯室へ行くと、いつもどおり丁寧にコーヒーを淹れ、ドリップを待つ間にガトーショコラを冷蔵庫から出し、ナイフでカットして二切れほど皿に載せた。――おっと、フォークも忘れずに!

 コーヒーにミルクと砂糖も淹れてかき混ぜ、準備ができたところでガトーショコラの皿と一緒に会長室へ運んで行った。

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 ――彼女に中からドアを開けてもらい、僕がデスクまでトレーを持っていくと、彼女は書棚から取り出した経営学の本を読んでいたようで、デスクの上にはページを開いたままの本が置かれていた。

「ありがとう、桐島さん。わぁ、美味しそう! さっそく頂くわね」

 席に戻ると、彼女は「美味しい!」と顔を綻ばせながらケーキを食べていた。この様子を見ていられるのは、秘書である僕のいちばんの特権かもしれない。

「会長に喜んで頂けてよかったです。お出しした甲斐がありましたね」

 かと思えば、しばらくして彼女はフォークを持ったまま、何やら思案顔になっていた。――どうやら、バレンタインに僕にガトーショコラを贈るべきか否かとお悩みだったらしい。