「……うん、そうね」
彼女は一拍遅れて、僕の言葉に反応した。まさか、僕からチョコを催促されるとは思ってもみなかったようだ。
でも、バレンタインデーのことは彼女の頭にもあったらしく、しかも僕から催促するまでもなく手作りチョコを準備する気満々だったようで、「美味しい手作りチョコ、期待しててね」とご自身からおっしゃった。
まさかの手作りチョコ……。もちろん、絢乃さんのスイーツ作りの腕は僕もすでに知っていたし、迷惑なわけでは決してなかった。むしろ、天にも昇るくらい嬉しかった。
僕は「もらえるなら市販品でもいいか」くらいの気持ちで言っただけだったから、余計にだった。
「いいんですか!? 手作りチョコなんて、僕が頂いても。会長はただでさえお忙しいのに、そんなことに時間を割いて頂くなんて! 光栄です!」
「うん、もちろんよ。日頃の感謝の気持ちも込めて作るから」
「ありがとうございます!」
感謝の気持ち、というフレーズには「ん?」と思ったが、それでも僕は感激した。
後で知ったことだが、彼女がバレンタインデーに男性にチョコを贈った相手は、なんと僕が初めてだったらしい。
初めての助手席に、初めての男性へのバレンタインチョコ。彼女の色々な「初めて」の相手が僕であることは誠に光栄なのだが、同時に「こんな僕でいいのだろうか?」と首をもたげてしまう自分がいる。……もちろん現在も、だが。
――そういえば、絢乃さんが出された改革案について話していたのだった。
彼女も話が本題からかなり逸れてしまったことに気づかれたらしく、そこで仕切り直しとばかりに大きく咳払いをされた。
「――で、他の改革案についてなんだけど。桐島さん、貴方の意見を聞かせてもらえる?」
会長は改革案を書き出した用紙を指で軽く弾き、秘書である僕に意見を求めてきた。
ワンマン経営者なら、多分こんなまどろっこしいことなんかしないで一人でさっさと決めてしまうのだろう。……そういう点でいえば、彼女は決してワンマンな経営者ではない。少なくともこのグループにおいては、彼女はトップとしてふさわしい人物だったと言える。
「う~ん、どれも経費がかかりそうですが……。実現すれば、社員が喜びそうなことばかりですね。経理部の加藤部長にも入って頂いて、あとは会議で決めましょうか。社長や専務には、僕から連絡しておきます。ではさっそく、この原案をもとにして、僕が会議の資料をまとめておきますね」
それまでは当たり前のように思っていた会社の慣習や設備も、こうして見直してみるとまあ、ムダや足らない部分が出るわ出るわ……。どうして気づかずにいられたのだろうと、僕は不思議に思った。
彼女は一拍遅れて、僕の言葉に反応した。まさか、僕からチョコを催促されるとは思ってもみなかったようだ。
でも、バレンタインデーのことは彼女の頭にもあったらしく、しかも僕から催促するまでもなく手作りチョコを準備する気満々だったようで、「美味しい手作りチョコ、期待しててね」とご自身からおっしゃった。
まさかの手作りチョコ……。もちろん、絢乃さんのスイーツ作りの腕は僕もすでに知っていたし、迷惑なわけでは決してなかった。むしろ、天にも昇るくらい嬉しかった。
僕は「もらえるなら市販品でもいいか」くらいの気持ちで言っただけだったから、余計にだった。
「いいんですか!? 手作りチョコなんて、僕が頂いても。会長はただでさえお忙しいのに、そんなことに時間を割いて頂くなんて! 光栄です!」
「うん、もちろんよ。日頃の感謝の気持ちも込めて作るから」
「ありがとうございます!」
感謝の気持ち、というフレーズには「ん?」と思ったが、それでも僕は感激した。
後で知ったことだが、彼女がバレンタインデーに男性にチョコを贈った相手は、なんと僕が初めてだったらしい。
初めての助手席に、初めての男性へのバレンタインチョコ。彼女の色々な「初めて」の相手が僕であることは誠に光栄なのだが、同時に「こんな僕でいいのだろうか?」と首をもたげてしまう自分がいる。……もちろん現在も、だが。
――そういえば、絢乃さんが出された改革案について話していたのだった。
彼女も話が本題からかなり逸れてしまったことに気づかれたらしく、そこで仕切り直しとばかりに大きく咳払いをされた。
「――で、他の改革案についてなんだけど。桐島さん、貴方の意見を聞かせてもらえる?」
会長は改革案を書き出した用紙を指で軽く弾き、秘書である僕に意見を求めてきた。
ワンマン経営者なら、多分こんなまどろっこしいことなんかしないで一人でさっさと決めてしまうのだろう。……そういう点でいえば、彼女は決してワンマンな経営者ではない。少なくともこのグループにおいては、彼女はトップとしてふさわしい人物だったと言える。
「う~ん、どれも経費がかかりそうですが……。実現すれば、社員が喜びそうなことばかりですね。経理部の加藤部長にも入って頂いて、あとは会議で決めましょうか。社長や専務には、僕から連絡しておきます。ではさっそく、この原案をもとにして、僕が会議の資料をまとめておきますね」
それまでは当たり前のように思っていた会社の慣習や設備も、こうして見直してみるとまあ、ムダや足らない部分が出るわ出るわ……。どうして気づかずにいられたのだろうと、僕は不思議に思った。