――その二日後、加奈子さんと共に取締役会に(のぞ)む絢乃さんは、真新しいブランド物らしきスーツ姿だった。
 彼女は美人でスタイルもいいので、何を着てもステキだ。そして……可愛い。僕がこの日初めて目にしたスーツ姿も大人っぽくビシッと決まっていて、本当にキャリアウーマンさながらだった。

 当日は土曜日。絢乃さんの学校は三学期が公立校よりも早めに始まっていたはずだが、当面は忌引きになっているのだと彼女は言った。僕は休日出勤だったので、この日の分の休日手当をもらえたことは言うまでもない。ウチの会社は、そういうところはキッチリしているのだ。

 そして、僕はこの日は事実上、秘書室での初仕事でもあった。まだ正式に籍が移ったわけではなかったが、絢乃さんのために働けるのなら休日出勤もドンと来いだった。たとえ「絢乃さんのイヌだ」と揶揄(やゆ)されたって構うものか。

「――おはようございます。桐島です。お迎えに上がりました」

 僕は彼女のスーツ姿を目にした途端、どう褒めていいのかうまい言葉が見つからなかった。
 元々、女性の扱いがそれほど得意ではない。どう褒めれば女性が喜ぶのかよく分からなかったうえに、ボキャブラリーも乏しいときている。
 どうでもいいが、僕は大学時代は心理学専攻だったのだが……。女性の心理だけは、なかなか掴みどころがないというか。こういうことは兄の方が得意かもしれない。

「おはよう、桐島さん。今日はよろしく。……あ、今日〝から〟かな」

 はにかみながら挨拶を返して下さった彼女の、なんて可愛かったことか!

「そうなるといいですね。……いえ、きっとなりますよ」

 僕はそれに見惚れていたことをごまかすために、笑顔でそう言った。が、それは僕自身の心からの望みでもあった。

 車内では、絢乃さん以上に加奈子さんのはしゃぎっぷりがすごかった。
 この車に絢乃さんを乗せるのはこの時が初めてだったので、彼女はとても喜んでいた。なので、彼女がはしゃぐのは分かるのだが。加奈子さんもまるで子供に戻ったようで、それもまた可愛らしかった。

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 ――それから三十分ほどで、僕たちは篠沢商事のビルに到着した。
 地下駐車場で絢乃さんたちを降ろすと、僕の仕事は一旦そこで終わり。

「僕は会議には参加できませんので、とりあえずどこか近くで時間を潰してますね。会議が終わり次第、またご連絡頂ければお宅までお送りします」

 僕は一般社員なので、残念ながら取締役会に加わることができなかった。なので会議が終わるまでどこかで時間を潰し、会議終了の連絡をもらえばまた戻ってきて二人を送り届けようと思っていたのだが。
 加奈子さんに「帰りはお抱え運転手を呼ぶから、もう帰っていい」と言われ、僕は内心ガッカリしていた。
 帰りも一緒になって、会議の結果どうなったかを彼女本人の口から聞きたかったし、彼女の服装へのコメントもまだしていなかったのだ。