「なるほど……。そういえば、女性の方が心の成長が早いってよく聞きますもんね。で、男性はいつまで経っても子供のままだと」

 ひと口に〝子供のまま〟といっても色々である。それが純真無垢な子供のままならまだいいのだが、某ネコ型ロボットのアニメに出てくる俺サマなガキ大将のままだとちょっとタチが悪い。
 絢乃さんたち親子を非難していた絢乃さんのご親族はきっと、後者にあたるのだろう。

「――それはおいといて。貴方はずいぶん、パパに信頼されてたのね。最期にわたしの将来を託すくらいだもの」

 彼女は早くも、二つめのお菓子に手を付け始めた。今度は高級バターをふんだんに使用したクッキーである。
 僕も絢乃さんもスイーツには目がないが、将来糖尿病になったりしないだろうか? そしてなぜ二人とも太らないのだろうか?

「……そうですね。もしかしたらお義父さまは、僕だったから信頼できたんじゃないでしょうか」

「うん? どういう意味?」

「僕が無欲だったから、という意味です。もしも僕が篠沢の財産目当てで逆玉を狙っていたとしたら、お義父さまからあんなに信頼されてなかったでしょうね」

 そもそも、僕がそんな男なら、闘病中のお父さまに心を痛めていた絢乃さんを慰めたり励ましたりなんかしないはずだ。ポックリ逝ってくれた方が、財産が転がり込んでくるのも早いのだから。……何ともひどい言い方だが。

「うん、そうだね。わたしも貴方がそんな人じゃなくてよかったと思ってる。っていうか、そんな人だって分かってたら好きになってないもん。有崎(ありさき)さんのこともあったし」

「……ああ、あの方ですね。そういえば、会長があの方にガツンとおっしゃって、僕のカタキ討ちをして下さったんですよね」

 大財閥の御曹司にして、起業家でありながら親の脛かじりだったその人に、僕と彼女の関係は一度壊されかけたのだ。去年の秋のことだった。
 あの時、僕は見事に彼から不安心を煽られ、絢乃さんとの結婚を諦めかけていた。「彼女にふさわしい相手は僕ではない」と。
 その原因を見事に見透かされ、静かな怒りをもって「わたしたちの絆は誰にも壊せない」と彼に啖呵を切ったのが彼女だったのだ。
 この話も、僕は新婚旅行中に初めて聞いたのだが……。

「……で、いよいよわたしが会長に、貴方が会長付秘書に就任するのよね? 早く早く! 続き!」

「はいはい。分かりました」

 可愛く駄々をこねた絢乃さんにせっつかれ、僕は話の続きを始めた。源一会長の葬儀を終えた日の夜に時間を戻して――。