スラリとした体型に、先ほど通りかかった女の子とよく似た大きな目。威厳に満ちた眼差し。長身でダンディな源一会長と並んでいたらすごく絵になるので、加奈子さんは僕たち社員の間で有名人だった。
 そして、源一会長が実は入り婿で、加奈子さんこそが篠沢一族の真のドンであるということも、周知の事実だった。

「あら、私のこと知ってるの? まあ当然よね」

 フフンと胸を反らした彼女に、僕はなぜかどこぞの女王を思い浮かべた。

「そりゃあそうですよ。……というか、先ほど〝ウチの絢乃に〟っておっしゃいませんでした?」

「ええ、言ったわよ。デレ~ッと鼻の下なんか伸ばしちゃって。高校生相手に」

「伸ばしてません! ……って、え!? 高校生!?」

 呆れたような、そしてちょっと面白がっているような彼女の言葉に、僕は耳を疑った。

「そうよ。あの子は私と篠沢源一の一人娘で、名前は絢乃。今、茗桜(めいおう)女子学院の高等部二年生。――何か訊きたいことある?」

「茗桜女子って……、あの、(はち)王子(おうじ)にある、名門お嬢さま校ですよね? 名家のご令嬢とか、政治家のお嬢さんとかが通ってるという……」

 僕はその学校名に聞き覚えがあった。というか有名な学校だし、中学時代の同級生の女の子が、「あたしも茗桜女子受けたいけど、学費高いからウチの経済力じゃムリだ」とグチっていたのを覚えていたからだった。

「ええ。あの子は初等部から通ってるわ。それも、私と夫が入学()れたんじゃなくて、自分から通いたいって言ってね。何でも、制服が気に入ったらしいわ」

「へぇ……、そうなんですか……」

 親に押し付けられたのではなく、自分の意思で小学校受験をした子なんて珍しいと思った。何より、「制服が気に入ったから」という理由が何とも女の子らしくて微笑ましい。

「――ところでキミ、所属と名前は? 招待客じゃないわよね?」

「ああ……、ハイ。僕は本社の総務課所属で、桐島貢といいます。もちろん招待客ではないんですが、ウチの課長が別件で出席できないから……と、代理出席を命じられまして」

「あらまぁ、災難ねぇ。――というか桐島くん、あの子が私の娘だって気づかなかったの?」

「…………えっと、ハイ」

 そういえば、加奈子さんに何となく雰囲気とか、顔立ちも似ているような気がした。彼女から漂っていた〝タダモノではないオーラ〟の正体は、コレだったのだ。

「あの子はまだ幼いから。でも、あと五年十年経てば、きっと化けるわよー♪」

「……はぁ」

 彼女は当時、十七歳。それから五年後だと二十二歳、十年後では二十七歳。……きっととびっきりの美女になっているだろう。十九歳の今でも十分美人だが。

「まぁ、私の娘なんだから当たり前だけどね。というわけで桐島くん、あの子に手出しちゃダメよ? まだ女子高生なんだから」