「……あの、絢乃さん。お父さまの葬儀は、僕たち総務課が取り仕切ることに決まりました。僕にとっては、これが総務課での最後の仕事になります」

 僕はそこからガラリと口調を仕事モードに切り替えた。残酷だったかもしれないが、大事なことなので彼女に告げなければならなかった。
 彼女はすでに、次期会長の最有力候補になっていたのだから。

『そうよね……。貴方、もうすぐ転属するって言ってたものね』

「はい」

『ママが村上さんに連絡を入れてるから、会社からも貴方に連絡が行くと思うけど。一応わたしからも伝えておこうと思って。――今夜のお通夜(つや)はウチの親族だけでやることになって、そこで親族には弁護士の先生からパパの遺言状が公開されることになったの。だから、明日の社葬の進行はお願いします』

 会社から連絡が来るのなら、わざわざ彼女から伝えてもらう必要性はないのだが。彼女はご自身の意思で僕に知らせることにしたようだった。それは義務ではなく、僕への信頼からだろう。

「分かりました。誠心誠意務めさせて頂きます。絢乃さん、今はおつらいでしょうけど、僕にできることなら力になりますから。何でもおっしゃって下さい。……わざわざご連絡頂いてありがとうございました」

『うん。わたしの方こそありがとう。それじゃ、明日、よろしくお願いします』

 彼女は自分から電話を切ることはほとんどなく、僕が切ることの方が多かった。この時も、僕が「失礼します」と一言添えてから終話ボタンをタップした。

「――は~~~~、エラいことになったな……」

 僕はおひとりさま用のコタツの天板にスマホを投げ出し、ゴロンと寝転がって天を仰いだ。
 まだ正月三が日だったが、正月の浮かれ気分はすっかりどこかに吹き飛んでしまった。自分の勤め先のボスが亡くなり、自分の所属部署がその葬儀を取り仕切ることが決まっていた。きっとすぐに会社から連絡が来て、緊急会議だから出てこいと言われるだろう。
 当然、正月休みも返上することになるだろうと分かっていたので、別に腹は立たなかった。むしろ、絢乃さんのためなら喜んで休暇くらい返上してやろうじゃないかと思っていた。

 ――案の定、それから一時間も経たないうちに、「これから緊急会議だから出社するように」と島谷課長から電話がかかってきた。

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 翌日の源一会長の葬儀は、都内にある大きな斎場(さいじょう)の一番広いホールでしめやかに(……なのか? あんなに物々しい葬儀なんて初めて見たぞ)執り行われた。
 その日は朝から寒く、クリスマスイヴ以来の雪が降りそうな日だった。