クリスマスイヴに「また連絡する」と約束したので、ご自宅で療養中だったお父さまのご様子を絢乃さんに訊ねてみると、彼女もまた力なくこう答えた。

「パパ、もうだいぶ弱っちゃってる。主治医の先生のお話だと、新しい年を迎えられるかどうか……って。だからもう、わたしもママも覚悟は決めたの」

 彼女はもう冬休みに入られていたが、ゆっくり休めてはいないようだった。

「そうですか……。せめて無事に年が越せたらいいですけどね……」

「うん、そうね。……桐島さん、慰めてくれてありがと。貴方と知り合いになれててよかった」

 こんな月並みの言葉でも、彼女が元気を取り戻してくれたなら僕はそれで十分満足だった。

 そして、会社では小川先輩から、こんな情報を仕入れていた。

「――桐島くん。私ね、来月から村上社長に付くことになったの。退職される前任者に代わって」

「そうなんですか、社長に。……で、先輩の後任は誰が?」

「実はね、源一会長からの直々のご指名で、あなたに決まったらしいのよ」

「…………へ? 僕が? マぁジっすか!」

 僕はあまりにもビックリして、声を上ずらせた。
 まだ秘書としては新米でペーペーのはずの僕が、一番下っ端のはずの僕が、新会長の秘書!? しかも、源一会長直々のご指名とは……!

「桐島くん、うるさいよ! ……それがね、会長はもう遺言状もお作りになってて、誰が新会長なのかもほぼ決まってるらしいの」

「その話なら、ご本人から伺いました。絢乃さんだそうですね」

 絢乃さんが源一会長の後継者だということは、僕もすでに知っていた。ということは、僕が会長付秘書に指名されたのは彼女のため、ということになる。

「あれ、知ってたの? でもよかったじゃない、絢乃さんが次の会長で。誰だか分かんないジイさんが会長だったら、桐島くんも付きたくないでしょ?」

「ジイさんって……。そりゃあまあ、ハッキリ言ってイヤですけど。っていうか、〝ほぼ〟ってことは、まだ決定じゃないんですね?」

 僕は先輩の毒舌に閉口しつつも、それは否定のしようがない事実だった。絢乃さんのためだったら、僕は何だってできる。でも、それが他のよく知らない他人のためにできるかと訊かれたら、自信がなかった。

「うん。会長が他界されてから招集される臨時の理事会で、他の候補者がいなきゃ決定でしょうけどね。私も奥さまから伺ったことがあるんだけど、篠沢一族の中には、絢乃さんが後継者だってことを苦々しく思ってる人たちもいるんだって。だから、その派閥で他の候補を立ててこられたらどうなるか……」