「――桐島くん、君には本当に感謝してるんだよ。君のおかげで、家内や娘と最期にいい思い出を作ることができたからね。私もこれで、もう思い残すことはない」

「いえ、そんな! 感謝して頂けるようなことは何も……」

 会長から頭を下げられた僕は、謙遜で返した。
 どうやら、絢乃さんがおっしゃっていたことは本当だったらしいが、僕には自分が特別なことをしたという意識はなかったのだ。むしろ、あれは人として当然の行動だったと今でも思っている。

「――会長、お約束しましょう。僕はこの先、誠心誠意、絢乃さんを支えていきます。ですから、ご安心下さい。僕を信じて下さい」

「桐島君。――いざという時は、絢乃を頼むよ」

 彼が真面目な顔でそう言った時、絢乃さんがお友達と一緒にキッチンから戻ってこられたのが見えた。僕がこの言葉に「……は?」と首を傾げたのは、彼女にこの時の会話の内容を詮索されたくなかったからである。
 会長も僕と同じように思われたようで、お嬢さんの姿に気づかれると「いや、何でもない」とごまかされ、僕に「今日は存分に楽しんでいきなさい」とだけおっしゃった。

 ――源一会長、僕は今、あなたとのお約束をキチンと果たせているでしょうか?
 僕は絢乃さんを心から愛しています。彼女を守れる自信はありませんが、幸せにしたいと心から思っています。
 僕では少々頼りないと、会長は呆れておいででしょうか? ですが、僕は天地神明に誓いました。絢乃さんの手を、絶対に離さないことを。彼女もきっと同じ想いでいるはずです。
 ですから、僕を信じて見守っていて下さいませんか? お願い致します――。

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 ――このパーティーでは、本当に楽しいひとときを過ごすことができた。
 
 このテーブルに並べられた、ちょっと場違いに見えたフライドチキンやホットビスケットは、里歩さんからの差し入れだったらしい。そのチキンを口元を油でベタつかせながら頬張る絢乃さんは、名家のお嬢さまというより一人の十代の女の子に見えた。
 彼女のその姿により親近感を覚えていたことは、僕の中だけの秘密である。

 ――彼女お手製のクリスマスケーキは、真っ白なホイップクリームと真っ赤なイチゴでデコレーションされたシンプルなものだったが、味は折り紙つきだった。
 甘いものが苦手なお父さまのために香り付け程度にリキュールを使ったらしいが、加熱されていてアルコールは飛んでいたので、香りだけなら下戸の僕にもあまり気にならなかった。